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2019/03/19

『新型出生前診断』と国立成育医療研究センター その5 私が息子に、「もう募金をするのはやめなさい」と怒った理由

●『臨床研究』に足りないもの 命が失われることが予めわかっているなら、命の尊さをもっと啓発すべきなのでは?

これはちょうど一年前、朝日新聞に掲載されてた『新型出生前診断』についての特集だ。産婦人科医と小児科医の意見が掲載されていた。後者は、自らダウン症のお子さんを育てている玉井浩大阪医科大小児科教授だ。


ダウン症、実態を知って 玉井浩・大阪医科大小児科教授 「命の選別」なのか 新型出生前診断、開始から5年 2018年3月19日 朝日新聞

新型出生前診断で染色体変異が見つかった夫婦の選択肢を増やす努力も必要です。米国では、ダウン症のある子どもを育てたいと希望する里親が常に約400組は登録されているそうです。ダウン症の子どもが素直でかわいいからです。日本では里親そのものの人数が少ないですが、その存在を知ることでダウン症の子どもを産んで育ててみようという夫婦が増えるかもしれません。

これまで抜け落ちていたと感じるのは、検査結果を受けて中絶を選んだ夫婦の心のケアです。強い罪悪感を抱き、うつ状態になったり、次の子どもを妊娠する決意ができなかったりしている複数の女性の話を聞いたことがあります。新型出生前診断は産科で実施しているので、中絶が終わると夫婦と医療機関とのつながりは切れてしまいます。その後も継続して相談できる窓口を設けるべきです。

生殖医療技術は大きく進歩しています。新型出生前診断がいま対象にしている3種類の染色体変異のほかに、もっと色々な変異が妊婦の血液からわかるようになっています。検査を受けたい人がいる以上、一律に規制することはできません。ただ、検査で見つかる変異の中には、日常生活に何も問題が生じないものや、どのような症状につながるのかよくわからないものもあります。

あらゆる人は、何らかの遺伝子の変異を持っています。それが人類の多様性にもなっています。出生前診断を考える際には、その点をよく理解してもらいたいです。



●執刀医への不信 なぜ、正々堂々と説明しないのか?

数年前、あるテレビ局の報道が、私の執刀医にインタビューを申し込んだそうだ。ところが、「一週間後にまた電話して欲しい」などと秘書が応対するだけで、いつものらりくらり。「結局、逃げ回って、答えてくれなかった」と言っていた。


私が手紙を送った時に、「俺に何をしろというのだ」とおっしゃるような方だ。もともと失われる命のために、何かしようと考えないのかもしれないと思っていたが、取材の対応を知り、ガッカリ感がさらに増した。


同じ胎児診断が専門でも、啓発に力を注ぐ医師もおられる。


これは胎児治療のパイオニア、川鰭市郎医師のブログ記事だ。2012年に週刊文春にスクープ記事が出た後、ダウン症の啓発のために、岩元綾さんの講演会を開いたことを綴っている。岩本さんの講演会には、文春に記事を書いた、伊藤隼也氏も駆けつけたそうだ。

●かわばたレター 2013年04月のレター 長良医療センター

https://www.hosp.go.jp/~ngr/cnt0_000106.html

3月30日に講演会を開くことはお知らせしましたね。満開の桜に迎えられた岩元綾さんとお父様の昭雄さんの講演会。会場の定員は80名だったんですが、とうてい足りそうもないんです。長良医療センターのみんなが協力して補助いすを大量に運んでくれました。会場で配る資料も、当初は150部用意したんですが、後から50部追加しました。実際会場は立ち見まで出る盛況で、正確な数は分からなくなってしまったんですが、定員の2倍以上の方が参加してくださいました。

お父様、昭雄さんのお話から始まりましたが、参加された皆さんは一言たりとも聞き漏らすまいと、じっと聞き入ります。ひらがなよりも漢字をしっかり教えること、話す、読む、書くことの継続が大切と熱のこもったお話をいただきました。そして綾さんが登壇します。ちょっと風邪気味とおっしゃってましたが、綾さんが国際会議で行った英語のスピーチを交えながら、英語での絵本の朗読も含めて約1時間にわたってお話ししてくださったんです。会場にはさわやかな感動が広がっていきます。

東京から駆けつけてくださった医療ジャーナリスト伊藤隼也さんも加わって、質疑応答を行いました。最後に綾さんにメッセージを皆さんに、とお願いしたところ「岐阜は私の第二のふるさとになりました。桜がとてもきれいでした。皆様の幸せの形が桜色になることをお祈りします」万来の拍手で講演会が終わりました。

私たちはダウン症にどんな能力が備わっているのか本当に知っているんでしょうか。岩元綾さんは本当に稀な成功例なんでしょうか。さまざまな医療や教育のあり方が変わることで、ダウン症の皆さんの環境は大きく変わるのかもしれない、綾さんのような方がもっと増えてくるのかもしれない、心の底からそんな気持ちになりました。



●私が息子に、「もう募金をするのはやめなさい」と怒った理由

成育は『新型出生前診断』を臨床研究として承認したのだ。本来であれば、成育がこのような啓発を率先して行うべきじゃないかと思う。


これは数年前、成育で行われたワークショップで通院する子どもたちに配られた人権に関するパンフレットだ。このように、「子どもの人権」について子供たちに教えるのに、肝心な心がこもっていないように思う。


『子どもサマーフェスティバル2017「僕たち、私たちの未来計画」』に参加して その3

参加した子どもたちに配られた、人権について書かれたパンフレット
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私はこの人権のパンフレットを目にして以来、疑問を感じるようになり、


とうとう息子に、「もう、募金するのはやめなさい。あなたが思っているほど、成育は、子ども達のことを思っていないんだから」と言ってしまった。


●超低出生体重児の虐待防止対策の不思議 子どもの人権は誰が守るのか?

なぜなら、成育への違和感は、この『新型出生前診断』の臨床研究だけじゃないからだ。例えば、成育のこころの診療部の責任者、奥山真紀子医師は、虐待の専門家で、国の虐待防止対策の審議会の委員に何度も選ばれている。


超低出生体重児と虐待 成育の奥山眞紀子氏は、虐待防止のためにこれまで何をしてきたのか? 前編



でも、奥山医師の行ってきた活動をよくよくみていくと、本当に子どものためなのかわからない。精神科への誘導だったり、児童養護施設を廃止し⾥親や特別養⼦縁組の『数』を増やすことじゃないかと思う。


そもそも、虐待されやすい筆頭に挙げられる、超低出生体重児にこそ、里親が必要だと思うが、育てるには知識や経験が必要で、誰でもいい、というわけにはいかない。


ところが、今まで専門家が考えた虐待防止対策とは、超低出生体重児の育児にたえられない母親を精神科に通院させ、騙し騙し育児をさせるような方法だった。でも私は、その方法は、子どもの人権という観点からすれば、おかしいと思う。なぜなら、母親は救われるかもしれないが、子どもの成長発達に悪影響を与えるかもしれないからだ。


息子が生まれて16年も経つが、相変わらず同じような事件は繰り返されている。なぜ、虐待事件が起きるのかよくわかっているはずなのに、一番支援が必要な人には届かない対策だからだろう。








そう。


日本は、中国のことを批判しているけれど、結局は同じじゃないかと思う。とてもじゃないけれど、批判する資格なんてないだろう。
2019/03/18

『新型出生前診断』と国立成育医療研究センター その4 臨床研究と『ジーンテック株式会社』

●2013年4月 臨床研究がスタートする

以前書いたように、臨床研究が本格的に始まるのは、2013年4月になってからだった。


臨床研究の開始直後、左合治彦医師は、このようにおっしゃっていた。


左合治彦さん(国立成育医療研究センター周産期センター長)「批判をきっかけに、NIPTをみんなで考えていきたい」 掲載:No.4647 2013年5月18日発行 日本医事新報社

今年4月から臨床研究が始まり、国民の関心が高まっている母体血を用いた新しい出生前診断(無侵襲的出生前遺伝学的検査=NIPT)。遺伝カウンセリング体制の整備などの要件を満たし、認定・登録された全国15施設で現在は実施されている。実施施設の1つである国立成育医療研究センター周産期センター長の左合さんは、不安な気持ちで同センターを訪れる妊婦と日々向き合っている。

93年から米国に5年間滞在し、当時最先端の遺伝医療を学んだ。NIPTのスポークスマンとして、メディアに登場することも多い左合さんは、NIPT推進派として見られることも多いが、決して検査を推進したいわけではないという。採血だけで安易にできてしまうNIPTには、各方面から「マススクリーニング検査として行われてしまう」との批判がある。しかし米国では、2011年に臨床検査としてのサービスが開始されており、日本への流入を防ぐことは事実上不可能な状態でもあった。

「ならばせめて、この検査があらぬ方向に進んでしまうことのないように正確な情報を国民に提示し、十分な遺伝カウンセリング体制の下で実施する必要があると思い臨床研究として開始したのです」



当初、検査を行う研究機関は11施設だけだった。なぜなら上記のインタビューにあるように、遺伝カウンセラーをはじめ、小児科の専門医など複数の専門家が勤務することが義務付けられたからだ。また検査の対象者も、胎児に染色体異常などの異常がみられる妊婦か、35歳以上の妊婦に絞られた。


こうした規制は、「この臨床研究は、あくまでも学術的なもので、シーケノム社の検査を普及させるためじゃないんですよ」と、知らしめるために必要だったのだろう。


ところが、事態は佐合氏が考えていたようにはすすまなかった。


●『臨床研究』と『ジーンテック株式会社』 『ジーンテック株式会社』が急成長した理由

なぜなら、検査が開始される前に、「ダウン症を確定できる精度の高い検査がはじまった!」という情報だけが一気に広まってしまったからだ。


日本産科婦人科学会はネットの影響をあまりにも軽く考えていたのだろう。すでに「夢のような検査」という情報が広まっているにも関わらず『指針』で、「この検査を産婦人科学会が倫理指針で一般の妊婦に説明する必要はない」と「規制」をかけたのだ。


母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針

公益社団法人日本産科婦人科学会倫理委員会
母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会


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VI 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対する医師、検査が医者の基本的姿勢


  1. 母胎血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の実施施設であるかないかに関わらずすべての医師は母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対して次のような姿勢で臨んで差し支えない。



  2. 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査について医師が妊婦に積極的に知らせる必要はない。ただし、妊婦が本検査に関する説明を求めた場合には、医師は本検査の原理をできる限り説明し、登録施設で受けることが可能であることを、情報として提供することを要する。



  3. 医師は母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を安易にすすめるべきでない。また検査会社がこの検査を勧める文書などを作成し、不特定多数の妊婦に配布することは望ましくない。



そのため、検査が受けられないはずの若い妊婦までが関心を持ち、検査を行う医療機関には、連日問い合わせが殺到する騒ぎとなったのだ。


皮肉なことに、このような規制が結果として、「シーケノム社の検査法」を普及させたのだ。


ところで、シーケノム社の日本国内の代理店は『ジーンテック株式会社』という会社だった。


『ジーンテック株式会社』の公式サイトによれば、会社が設立されたのは2010(平成22)年10月。シーケノム社が新しい検査の受託開始を発表するちょうど一年前だ。そして1年後の2012年((平成24)、日本で、臨床研究がスタートされることが発表され、翌年2013年から本格的にスタートする。


佐合氏は、2013年のインタビューで「(臨床研究は)シーケノムの検査法を広めるためではない」とおっしゃっていたが、この臨床研究が、『ジーンテック株式会社』の業績をあと押したことは紛れもない事実だろう。これは私がブログに記録した佐合氏の学会発表だ。


1. 【 第66回日本産科婦人科学会学術講演会(JSOG2014)】


2014年(平成26年) 4月18日(金) 19日(土) 20日(日)
http://jsog.umin.ac.jp/66/index66.htm


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2014年 4年19日(土)ランチョンセミナー
http://jsog.umin.ac.jp/66/program66.html


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(第1会場:ホール A,12 : 00~13 : 00)

11.The Evolution of Noninvasive Prenatal Testing for Fetal Aneuploidies

共催:Sequenom 株式会社/GeneTech 株式会社
座長:国立成育医療研究センター 左 合 治 彦
演者:Sequenom Inc. Allan Bombard



2. 【 産婦人科遺伝セミナー第17 回胎児遺伝子研究会  2014 年11月7日(金)-8日(土)】
http://pd17.umin.jp


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プログラム
http://pd17.umin.jp/program.pdf


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Status of Maternal Plasma DNA Testing in the United states

座長 : 左合 治彦 (国立成育医療研究センター )
共催 : GeneTech 株式会社



日本産科婦人科学会は、情報を積極的に出さなかったが、『ジーンテック株式会社』の求人情報は、幾つもの求人サイトに掲載されていた。

ジーンテック株式会社 学術職【東京】【DNA・遺伝子知識を活かしていただけます】 No.80408415の求人・転職情報パソナキャリア

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【特徴】

~日本で唯一の母体血による胎児DNA診断サービスを提供する会社~


■アメリカ・シーケノム(Sequenom)社の国内代理店として、日本国内でサービスの普及活動を担っています。

■医学会からの許可がおり、2013年4月より、特定の大病院にて、妊婦からの検査の申し込みが可能となりました。一つの病院での申し込み枠は2-3名/週ですが、常に枠が埋まっている状況で、ニーズの高さが伺えます。

■現在採血した母体血はアメリカ・シーケノム社に輸送し分析検査をしていますが、現在ジーンテックでもラボを建設する計画となっており、近い将来国内で全ての検査業務ができるように整います。

【検査目的】

■母体血中にある、胎児由来遺伝子を調べることにより,胎児の染色体数の異常(特定の病気)を診断いたします。

■対象は、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーの3種類です。

■「羊水検査」は母体ダメージや流産のリスクがあります。母体血診断はリスクが非常に低く、高確率(99%以上と言われています)で異常を特定することができます。



「ジーンテック」学術職【東京】【DNA・遺伝子知識を活かしていただけます】| 大手の転職サイトを便利に一括検索・応募できる転職支援サイト 【転職求人】 情報更新日: 2015/05/28

おすすめポイント

日本で唯一の母体血による胎児DNA診断サービスを提供!広く認知されている「羊水検査」よりも母体ダメージや流産のリスクが圧倒的に低く、99%以上の精密な結果が出る検査です。
顕在化していないニーズが多くあり今後飛躍的な成長が期待できます!


ジーンテック株式会社 / 臨床検査技師の転職・求人情報|キャリアインデックス (掲載終了日時 2015年9月17日)

募集背景

業容拡大しているための増員

仕事のやりがい

現在4人に1人が高齢出産である日本において、無侵襲で安全な検査を期待する声は多く、今後も成長が見込まれております。また、参入障壁が高い業界でもあり、現状国内唯一の企業ですので、業界優位性は非常に高いと言えます。



●ナチスドイツの「優生政策」は、上手くいったのか?

求人サイトの「4人に1人が高齢出産である日本において」などの表現はともかく、「顕在化していないニーズが多くあり今後飛躍的な成長が期待できます」とあるのは、今後、診断の範囲が拡大されることを見込んでのことなのだろう。こうした文言を不快に思うのは私だけではないはずだ。なぜなら、人の遺伝子は全てが解明されていないわけではない。だから病気になる可能性が高いからといって、必ず発病するとは限らないのだ。


ナチスドイツの「優生政策」が結局、どうなったのか紹介しているサイトがある。人類の進化には途方も無い年月がかかっているんだから、人間が考えることって、簡単に上手くいかないんじゃないかと思う。


ナチス・ドイツの「優生政策」の実態

「『レーベンスボルン』の会員になれるのは、男は親衛隊員などの高級将校、女はアーリア人種としての特徴が祖父母の代まで認められた遺伝的資質の優れた者で、のちに枠が拡げられ、ドイツ人でなくてもナチの基準に合えば入れるようになります。大切なのは目の色、髪の毛の色、そしてことに頭の形で、例えば丸い頭の者は全くチャンスがないのでした。 〈中略〉

『レーベンスボルン』で生まれた子供たちはエリートになるはず。国の将来を担う人に育つ予定でした。二親の最も優れた遺伝子を受け継ぎ、生まれたときにすでにスーパー人種であるはずです。

実際にそうなったでしょうか?

戦後の調査では驚いたことにそのほとんどに知能や体力の点での後退が見られる……。3歳でまだ歩けない子、まだしゃべれない子、かなりの損傷を持った子供もいるのでした。



子どもだったら、奇跡が起きる可能性だってあるはずだ。


これは2016年3月28日に配信された株式ニュース。どのような経緯があれ、『ジーンテック株式会社』が、臨床研究のスタートとともに業績を伸ばしたことは事実だ。


ノーリツ鋼機がカイ気配スタート、100%子会社を通じてGeneTech株式を取得 2016年03月28日 株式経済新聞

ノーリツ鋼機<7744>がカイ気配スタートとなっている。前週末25日の取引終了後、100%子会社のNKリレーションズが、胎児遺伝子検査サービスを手掛けるGeneTech(東京都港区)の株式を取得し子会社化すると発表しており、これを好感した買いが入っている。

GeneTechは、母体血による胎児遺伝子検査技術である無侵襲的出生前遺伝子検査(NIPT)の日本におけるパイオニア。NKリレーションズでは、30億2300万円でGeneTech株式7万4000株(議決権所有割合64.7%)を取得する。

また同時に、グループの日本再生医療(JRM)が開発を進めている小児先天性心疾患の治療に用いる「自家心臓内肝細胞」が、再生医療等製品としては初めて厚労省の「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されたと発表しており、これも好材料視されている。



続く
2019/03/15

『新型出生前診断』と国立成育医療研究センター その3 2012年、『ほくりく健康創造クラスター』は『NIPTコンソーシアム』へ

●『ほくりく健康創造クラスター』→『NIPTコンソーシアム』

ところで臨床研究の推進母体となったのは、『NIPTコンソーシアム』という団体だった。読売に掲載された5施設をみればわかるように、「ほくりくクラスター」に参加していた国立成育医療研究センターの北川道弘医師(当時)と左合治彦医師が中心となってつくったようだ。


週刊文春にこの臨床研究について、興味深いことが書かれていた。


新型診断の導入に向け、一部の医療関係者は性急な動きを見せている。例えば、国立医療研究センターでは、検査導入を議論する院内の倫理委員会で、3回目にしてようやく反対意見をねじ伏せ、10月9 日に計画を通過させた。今後、実験的に検査を行う臨床試験を予定している。



NIPTコンソーシアムメンバー NIPTコンソーシアム

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北川 道弘(山王病院) :組織代表
左合 治彦(国立成育医療研究センター) :研究代表
関沢 明彦(昭和大学) :研究事務局



なぜ、成育が中心となったかは、成育がナショナルセンターであり厚労省と密接な関係にあることの他に、北川医師と左合医師の経歴も関係しているだろう。


成育の前身、旧大蔵病院のホームページが残っている。北川医師と左合医師は、共に東京慈恵会医科大学を卒業し、米国南カリフォルニア大学への留学経験があ理、専門も胎児診断や遺伝子診断だ。検査法を開発した『シーケノム社』も米国カリフォルニア州サンディエゴに本社がある。


大蔵病院ホームページ

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北川 道弘
1974年 東京慈恵会医科大学卒。
1991年~1993年 米国南カリフォルニア大分子生物学教室留学。


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左合治彦
1982年:東京慈恵会医科大学卒。
1993~94年:米国南カリフォルニア大学医学部留学。



●8月31日に開かれた国立成育医療研究センター 第5回倫理委員会

そこで成育の倫理委員会の記録を調べてみた。初めてこの臨床研究が取り上げられたのは、2012(平成24)年8月31日、第5回倫理委員会だった。1回目の審査では、異論が出て継続審査になったものの、9月 25日の審査では条件付承認となっている。


【1回目】
https://www.ncchd.go.jp/center/information/committee/ethics/h24/h24-05.html
2012年(平成24年度 ) 第5回倫理委員会

開催日時: 平成24年8月31日(金)13:45~20:50
開催場所: (独)国立成育医療研究センター4階会議室41・42
出席委員: 河原委員長、石井委員、磯部委員、五十子委員、宇都木委員、梅澤委員、岡本委員、奥山(虎)委員、奥山(眞)委員、斎藤委員

受付番号606 胎児・胎盤の成長・発達における遺伝および環境因子の検討(迅速審査)

申請者

左合 治彦

申請の概要

主米国で臨床応用されている無侵襲的出生前遺伝学的検査である母体血中cell-free DNA胎児染色体検査を日本で実施するにあたり、当センターならびに研究協力施設で臨床研究として実施する。妊娠10週以降で児の染色体異常のリスクが高いと思われる妊婦で、検査を希望する者に対して遺伝カウンセリングを行い自発的な検査希望があった場合に、末梢血を米国の検査会社に送り、母体血漿中の胎児由来のcell-free DNA用いて胎児の21番、18番、13番染色体の数的異常の有無を検査する。検査結果は、遺伝カウンセリング外来で説明し、妊婦が自律的にその後の追加検査を含めた選択が行えるように支援する。検査の有用性や臨床応用に関する問題点を検討する。

審議結果

1. 本研究の必要性、重要性を認める。しかしながら、適切に研究を実施することができるよう、下記の事項を検討のうえ、申請書(研究計画書、説明書等)を整え直すこと。
●研究の目的と期待する結果との関係をより明確にするプロトコールとなるように再検討すること。その際、下記の事項を記載すること。
●遺伝カウンセリングについて評価することができるようなデザインを組むこと。
●研究のアウトカムを具体的に記載すること。またアウトカムをどのように活用するのかについても盛り込むこと。(ガイドラインの作成に つなげるなど)


2. 検査費用の見積もりなど検査費用の設定について明確にすること。

3. 米国の検査会社と取り次ぐ日本の会社について、下記の事項を明確にすること。
●会社の概要
●両会社間の関係が分かるもの


4. 研究内容を反映した研究課題名となるようにすること。

判定

継続審査


【2回目】
https://www.ncchd.go.jp/center/information/committee/ethics/h24/h24-06.html
2012年 倫理委員会 国立成育医療研究センター
第6回倫理委員会


開催日時: 平成24年9月25日(火)10:30~17:00
開催場所: (独)国立成育医療研究センター2階会議室21
出席委員: 河原委員長、名取副委員長、石井委員、磯部委員、五十子委員、宇都木委員、梅澤委員、岡本委員、奥山(虎)委員、奥山(眞)委員、斎藤委員、野島委員、松井委員、松下委員
審議課題数: 21件(承認20件、条件付承認1件)

受付番号602 無侵襲的出生前遺伝学的検査である母体血中cell-free DNA胎児染色体検査の遺伝カウンセリングに関する研究(一般審査)

申請者

左合 治彦

申請の概要

米国で臨床応用されている無侵襲的出生前遺伝学的検査である母体血中cell-free DNA胎児染色体検査を日本で実施するにあたり、当センターならびに研究協力施設で臨床研究として実施する。妊娠10週以降で児の染色体異常のリスクが高いと思われる妊婦で、検査を希望する者に対して遺伝カウンセリングを行い自発的な検査希望があった場合に、末梢血を米国の検査会社に送り、母体血漿中の胎児由来のcell-free DNA用いて胎児の21番、18番、13番染色体の数的異常の有無を検査する。検査結果は、遺伝カウンセリング外来で説明し、妊婦が自律的にその後の追加検査を含めた選択が行えるように支援する。遺伝カウンセリングの妥当性を評価するとともに問題点を検討して、遺伝カウンセリングの基礎資料(検査実態、施設基準、カウンセリング内容)を作成する。

審議結果

本研究の医療・医学上の意義を認め、かつ倫理的に妥当と判断し、承認する。
但し、以下の点について加筆・修正すること。
(略)

判定

条件付承認(修正確認は委員長一任)



文春によればこの後、10月9日に承認されたという。


以上、2012年に起きた出来事を簡単にまとめるとこんな感じだろう。


【2012年に起きた出来事】

春 シーケノム社が開発した新型診断が注目を集め、日本でも日本人の母体血を使って臨床試験の議論が始まる

 ↓

8月 中国「BGI」社が日本産科婦人科学会(日産婦学会)の幹部に極秘に接触

 ↓

8月29日 読売新聞に「妊婦血液でダウン症診断国内5施設 精度99%、来月にも」という記事が掲載される

 ↓

8月31日 成育の倫理委員会に、臨床研究が申請され継続審査となる

 ↓

10月9日 3回目の審議で、反対意見をねじ伏せ計画を通過させる

 ↓

臨床研究がスタートしたのは2013年4月



続く
2019/03/15

『新型出生前診断』と国立成育医療研究センター その2 2012年、欧米や中国から黒船がやってきた

●2012(平成24)年は、我が国の『新型出生前診断』の研究の転換期 『週刊文春』にしか掲載されていない情報

恐る恐る進められていた我が国の『新型出生前診断』の研究に転機がおとづれたのは、2012(平成24)年。この年に何があったのか。


以前ブログに引用した、2012年11月に発売された、医療ジャーナリスト伊藤隼也氏の週刊文春の記事をもとに、もう一度整理する。


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「あぶない高齢出産」 中国系企業が参入 格安「出生前診断」に気をつけろ!週刊文春 医療ジャーナリスト 伊藤隼也+本誌取材班 2012.11.15



私が伊藤氏に許可を得て、この記事をブログに文字に起こしたのは、『新型出生前診断』とは関係がない。当時、伊藤氏に対する、誹謗中傷があまりにもヒドかったからだ。伊藤氏は、ネットに書かれているようなトンデモジャーナリストか検証しようと、許可をいただき文字に起こしブログに転載させていただいた。


ところが時間がたって、改めて記事を読むとあることに気づく。当時、新聞やテレビは、あたかも学会が万全の体制で臨床研究をスタートさせたかのように伝えていたが、文春には中国の検査会社が学会幹部に極秘で接触したことがきっかけだったと暴露されているのだ。 ちょうど、江戸末期に、黒船がやってきた時のようだ。


一般的に週刊誌報道は、内部告発から取材が始まることが多い。掲載されたのが文春で、書き手が伊藤氏ならば、リークした人物は、学会の重鎮など、それなりの立場の医師に違いない。


●『新型出生前診断』を日本に普及させたのは私の執刀医

ちょうどいい機会なので、もう一度整理してみよう。


私は、この『新型出生前診断』は、昨年社会問題化した『強制不妊手術』と同様、批判される日が来るんじゃないかと考えている。


しかもこの技術を日本に普及させたのは私の執刀医だった。


私は超低出生体重児の母親として、フォローアップ、とりわけ教育支援が不十分なことをよく知っている。息子が生まれて16年以上も経つのに、支援体制は後手後手だ。医療や科学が進んでも、それだけでは人の命を救うことにならないんじゃないかと思う。今の医療は私たちを幸せにしているのか、疑問を感じる。


だから今の私の思いや、時代の空気を記録しておこうと思う。


●2012春 シーケノム社が開発した新型診断が注目を集める

2012年、春にアメリカのマイアミで開かれた国際出生前診断学会で、シーケノム社が開発した新型診断が注目を集める。この発表を受けて、日本でも日本人の母体血を使って臨床試験をはじめるべきでないかという議論が始まる。


●8月 中国・深圳を拠点とする「BGI」社が日本産科婦人科学会(日産婦学会)に極秘に接触

8月になり、中国・深圳を拠点とする「BGI」社(正式名称・深圳華大基因研究院)が日本産科婦人科学会(日産婦学会)に極秘に接触。この時対応したのは、日産婦学会の出生前診断に関するワーキンググループのトップである横浜市立大学の平原史樹教授と言われている。BGIは4万円という破格の検査費用を提示し、日本進出を画策したという。


BGIの検査は、シーケノム社の検査法とは大きく異なる。13億人もの人口を抱える中国国内では、ダウン症の治療費も毎年20億元(約250億円)を超えていた。この治療費が国家財政を圧迫させているとし、国を挙げてダウン症児を削減するために、この検査を開発したという。


中国の考え方は、昨年社会問題化した『強制不妊手術』にそっくりだ。





もしBGIが日本の医療機関と直接契約を結ぶとなれば、薬事法の管轄外であるため規制する方法がない。さらに、日本人のDNA情報が、中国に流出することにもなる。


週刊文春には、医療者の話として、「危機感を持った平林教授は、『シーケノム社』の検査の導入に向け、臨床試験開始への動きを加速させた」というコメントが掲載されている。


●8月29日読売新聞に掲載された「妊婦血液でダウン症診断国内5施設 精度99%、来月にも」という記事が混乱を招く

こうした学会の動きをすっぱ抜いたのが、8月29日に読売新聞一面に大きく掲載された「妊婦血液でダウン症診断国内5施設 精度99%、来月にも」というセンセーショナルなタイトルの記事だった。この後、マスコミが出生前診断をこぞって取り上げたため、各病院(国立成育医療研究センター、昭和大、慈恵医大、東大、横浜市大)には妊婦からの問い合わせが殺到したという。


数ヶ月後の11月に発売された週間文春は、現場の動揺を伝えている。どうやら、なし崩し的な、見切り発車だったようだ。以下は掲載された関係者のコメントだ。


(医療関係者)
日産婦学会は公にしていませんが、彼らの言い分は “この検査が日本に入ってくるのは不可避であり、これを受け入れるためには出生前診断を受ける母親に対して適切な『遺伝カウンセリング』が必要である。そのために新型の臨床試験を実施すべきだ”というものです。しかし、現状でも行き届いていない遺伝カウンセリングを、適切に行えるとは到底思えません」


(山梨大学の中込さと子教授)
「日産婦学会の主催する検討委員会の考える遺伝カウンセリングとは、検査についての情報だけです。妊娠や出産、産後、あるいは中絶を選択した場合でも、母親が求める限り、最期まで責任を持ってケアをしていくのが本来の周産期のカウンセリングのはずです。これは今までの助産師が果たしてきた役割なのです。それをいきなり検査段階に限定してカウンセラーを導入したとしても、機能するはずないと考えます」



確かに、文春に掲載されたことが事実で、フォロー体制が十分でなければ、結局は中国のような「命の切り捨て」と同じだろう。


続く
2019/03/12

『新型出生前診断』と国立成育医療研究センター その1 2008年〜2012年 日本でも『新型出生前診断』の研究がすすめられていた

街のクリニックでも『新型出生前診断』を受けるkとが可能になると報道されたことで、過去の記事へのアクセスが増え続けている。





そこで、『新型出生前診断』が、日本でどのように普及していったのか、もう一度まとめることにした。


●2008年〜2012年 日本でも『新型出生前診断』の研究がすすめられていた 文部科学省の「ほくりく健康創造クラスター」

はじめに、あまり知られていないが『新型出生前診断』は、日本でも研究がすすめられていた。


2008年(平成20年)から2012年(平成24年)まで続けられた、文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラム(グローバル型)「ほくりく健康創造クラスター」という事業がある。


北陸は「富山の薬売り」という言葉があるほど、古くから薬製造が盛んだ。その北陸に、国際的な医療機器、医薬品産業をと、産学官が力を合わせ、北陸地方から世界に通用するビジネスを生み出すことを目標にスタートしたようだ。


文部科学省・ほくりく健康創造クラスター

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クラスターのねらい 文部科学省・ほくりく健康創造クラスター

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この事業の柱となったのが、がいわゆる『新型出生前診断』と呼ばれる検査法の研究だった。


事業のスタート共に、金沢医科大学に『FDD-MB Center』が設立された。注目すべきは、参加団体の中に、『NIPTコンソーシアム』(共同臨床研究の推進母体)の牽引役となる、国立成育医療センター昭和大学が含まれている点だ。


血液中の有核赤血球の回収・DNA分析システムの開発 文部科学省・ほくりく健康創造クラスター

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研究代表 金沢医科大学FDD-MD Center センター長 高林晴夫
U R L http://idm-world.com/FDD-MB/Center/indexj.html

参画機関 金沢医科大学FDD-MB Center、北陸先端科学技術大学院大学、金沢工業大学、国立成育医療研究センター、昭和大学、大阪大学大学院、東京農工大学大学院、関西学院大学、社団法人FDD-MB Study Group、 財 団法人 石川県予防医学協会、FDD-MB株式会社、日本ガイシ株式会社、株式会社ニコン、富士ゼロックス株式会社、エスシーワールド株式会社、 株式会社スギノマシン、浅ノ川総合病院


金沢医科大学 FDD-MB Center

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●『新型出生前診断』の狙い 胎児の段階で診断が確定できれば、治療に結びつけられるから

ところで先ほどの「クラスターのねらい」にあるように、この事業は、健康を産業にすることを目指している。だから『新型出生前診断』は障害がある子どもを排除するために開発されたわけではない。胎児の段階で、早期に検査ができれば、早期に治療ができるということだった。


金沢医科大学の高林晴夫センター長を中心とした研究グループが確立しようとしていた検査法は、8週目程度という超初期の段階で検査ができることを目指していた。


高齢出産が増えているため、母親の心理的負担を減らす狙いもあったそうだ。


これは米国の「シーケノム」社が、新型出生前診断の受託開始を発表した後に、読売新聞に掲載された記事だ。高林センター長のコメントから、苦悩が読み取れる。


「命の選択」助長の懸念 読売新聞 2012年1月12日

出生前診断は、胎児の染色体や遺伝子などの異常を調べる検査だ。新しい検査法は2011年10月、米国のバイオ企業「シーケノム」が始めた。妊婦の血液にわずかに含まれる胎児のDNAに着目。染色体異常の一つであるダウン症かどうか判定できるとしている。

確実な診断法として従来行われている羊水検査は、腹部に針を刺して羊水を採取するため、約0・5%に流産の危険がある。これに対し、新しい検査は、流産の危険はない。時期も妊娠10週からと、羊水検査(15~17週)より早い。同社は、検査精度について、「99%以上で、ほぼ確実な診断」とする。欧州などへの進出も目指しており、日本も視野に入れているとしている。

ただし、国際出生前診断学会(本部・米国)は「100%確実ではない。確定診断には羊水検査が必要」などとする声明を緊急に発表。日本で流産の危険性のない独自の検査法の開発に取り組んでいる高林晴夫・金沢医大准教授も「異常の有無を確定できるレベルではない」と指摘する。



●海外勢との違い 日本に可能性はないのか?

日本で行われていた研究について詳しく調べると、精度の高い検査法を目指していたため、海外勢に負けたのかな、という感じもする。


海外勢には、大きく分けて二つの勢力があるようだ。一つは、日本で初めに広まったような、欧米的なある程度の質を担保した上で、大量に安価に普及させる方法。そしてもう一つは中国のように、倫理などどうでもよくて、特定の障害を狙い撃ちし、とにかく安価に普及させる方法だ。


超低出生体重児を育ててきた私からすれば、日本的な考え方でも、十分いけるんじゃないかと思う。価格は抑えられないかもしれないが、質を第一に考え、育児や教育方法などのアドバイスを付加価値としてつければ、第三の道もあるんじゃないかと思うからだ。


なぜなら、海外から出てくる報告にある超低出生体重児の長期予後と、目の前の我が子とは、あまりにも隔たりがあるからだ。官僚をはじめ、エライ先生たちにはわからないかもしれないが、もしかしたら日本には可能性があるんじゃないかと思う。


続く


『新型出生前診断』が導入された経緯や問題点、導入後の混乱についてまとめてあります↓
『新型出生前診断』の問題点について その1 事実は小説よりも奇なり

国立成育医療研究センターと『新型出生前診断(NIPT)』 日本産科婦人科学会の方針に日本小児科学会は反対 前編