2015/10/29

『新型出生前診断』の問題点について 最後に 「人命は生産よりも優先するということを、企業全体に要望する」①

●私と水俣病





最後の締めくくりは、やっぱり私のことになるのかな。『事実は小説よりも奇なり』について、詳しく書いておこう。


自己紹介でも少し触れているけれど、私は水俣病と関係がある。このペンダントは、水俣病の裁判で、チッソ側代理人をしておられた、K弁護士のお嬢さんとお孫さんが私のために選んでくださったものだ。父はK弁護士と長い間一緒に仕事をしてきた。そのため私は、父と会社は悪いことをしてお金儲けをしている、と思い込むようになってしまったのだ。


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●私と華麗なる一族





昨年、国立公文書館で行われた、平成26年特別展 『江戸時代の罪と罰』に出かけ、感想を書いたところ、アクセスが増えてびっくりした。


実はもう一つ、アクセスが多い記事がある。あの日、公文書館の入り口にある売店で売っていた『高度成長の時代へ』という展示のパンフレットを読んだ感想をかいたものだ。すでに終わった展示だけれど、面白いから感想を書いたところ、多くのアクセスがあったのだ。その理由は、私の生い立ちにあるのだろうか。


「次の時代コンクリートから人へ」


私がいつのまにか『精神障害者』にされたのは、私を担当をしていた「心の専門家」が私の話を「作り話」・「妄想」と勘違いしたからだと思っている。あるいは自分に紹介された患者は「『統合失調症』にしなければならない」という強迫観念や思い込みがあったのだろう。


なぜなら、カルテを開示したら初診からいきなり、精神障害があることにされていた。もしも黙っていたら、どんどん投薬され廃人なってしまうところだったと、ゾッとした。何しろ、治さなくていいのだから。


しかも開示されたといっても黒塗りばかり。ナショナルセンターにとって、都合の悪い部分は隠されているのに、主治医が電子カルテに打ち込んだ「華麗なる一族」という文字は隠されていない。


すんなり開示してくれたけれど、「ああ、そういうことか」と思った。


「華麗なる一族」とは私が通院して当時、放送されていたTBSドラマのタイトルだ。ドラマを見た時、私はお世話になった鈴木会長とご兄弟を思い出し懐かしく感じた。だから、その心の専門家に「華麗なる一族はとてもドラマだと思えません」といったことがあったのだ。


「あなたは慣れない未熟児の育児に困っているから、相談したらいい」と巧みに精神科に誘導したのに。ここが精神科だとは一言もいわなかったじゃない。それなのにいざ落ち度を指摘されると、こうやって患者の『通院歴』を利用し、心理的に追い詰めようとする。ずるい人達だと失望した。


そもそも、私のようなバックグラウンドがなければ、福島地裁に手紙を書いたりしないんじゃないのかな、と私は思うけれど、そんなことは、センターにとったらどうでもいいことなのだろう。


しかし、今はどう思っているのかな?


要望書を書いた人に会って話だけでもきいてみようとか、自分達の目で確かめるとか全く考えないからこんな大げさなことになったんじゃないんですか?医師個人の問題もあるだろうし、都合の悪いことを闇に葬ろうという日本のナショナルセンターの体質もあるだろう。


書いているうちに、やっぱり怒れてきちゃうな・・・。


●人命は生産よりも優先するということを、企業全体に要望する


さて、前置きはこのくらいにして、「あなたは何が言いたいのかよくわからない」といわれることがある。最期にまとめておこう。


これは2009年1月28日にNHKで放送された「その時歴史が動いた 我が会社に非あり〜水俣病と向き合った医師の葛藤〜」で放送された、細川一医師の直筆のメモだ。


「わが会社に非あり~水俣病と向き合った医師の葛藤~」(4)


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「人命は生産よりも優先するということを、企業全体に要望する」


細川医師は新日本窒素肥料株式会社(後のチッソ株式会社)水俣工場附属病院長でありながら、水俣病の解明に力を注ぎ、水俣病訴訟において会社の非を認めた。この細川一医師は、私が尊敬している歴史上の人物の一人だ。私には、細川医師の言葉と同様の考えがあるのだ。


続く
2015/10/26

『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編  ④

(※ これは2012年11月22日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編  ③ の続き


ただ、最大の問題は今の日本に女性が若いうちから子供を産み、育てていく環境が十分に整っているとは言い難いことにある。


この問題を克服した好例がフランスである。


フランスはかつて第二次世界大戦後にベビーブームを迎えたが、70年代に入り出生率は低下。少子化に悩んだ。そこで1982年にとった政策が、妊婦検診料の無料化と、43歳未満の不妊治療費の無料化であった。人工授精(6回まで)や対外受精(4回まで)など、不妊にかかる費用のほぼ全てを社会保険でカバーしたのである。その効果は後年になって数字になって現れ、1人の女性が一生に産む子供の数を示す合計特殊出生率は、06年には2.00となり、欧州でトップになった。この施策は現在でもなお続いている。


●助成金制度が実態に即していない


一方、わが国の不妊治療に対する助成金だが、基本的に上限は1回当たりの治療に関して15万円、年間30万円まで。助成総額は5 年で150万円まで、となっている。


これは、「実態に即していない」と松本氏は指摘する。


「対外受精をする場合、大体50万円が必要です。例えば、若くして不妊に悩んでいるカップルの場合、助成金が15万円出たとしても、残りの35万円はなかなか出せる金額ではない。結局、治療に文樹絵ず、歳を重ねて言ってしまうケースが多いのです。5年で150万円ではなく、最初から150万円使えるようにすれば所得の低い若年層も治療に踏み切れる」


前出の高橋医師は、「5 年」という期間に対する疑問を投げかける。


「対外受精を5 年も続ける意味は、全くありません。対外受精が必要なカップルには1 年以内に3回はやってもらいたいのです。子供ができる人の8割は1 年以内(3回までに)できるのです。せっかくの助成金なのですから、医療現場に見合った制度に早急に改善してほしい問題です」


86年の男女雇用機会均等法施行以降、社会競争に晒された女性たちの間では、「妊娠で休むなんてとんでもない。今こそ働かなければ」という意識が高まり、「産む性」としての女性の社会的位置づけが置き去りにされたままなのである。


前出の久保医師が話す。


「日本では大企業で働く女性の多くが『最初の赤ちゃんは35から39歳までに欲しい』と言います。要するに、自分が仕事でポジションを得て、1年近く、産休や育児休暇で休んだとしても、職場で疎かにされず、復帰もしやすり立場を築く年齢です。これが高齢出産の増加の遠因ともなっているのです。はっきり言えば、この国は若い女性が働きながら子育てのできる環境にはないということを如実に示しているのです」


フランスのように社会保険システムを根底から変えるという判断を下すのは、脆弱な昨今の政権体制では難しかろう。だが、行政制度は変わらずとも、患者に直面している医療の現場では少しずつ変化が起き、光が見え始めている。


例えば、ほとんどの働く女性は、普段は仕事に掛かり切りで地域との関わりがない。近隣に相談相手もいないが、妊娠した途端に地域社会とゼロから向き合うことになる。この突然の孤絶状態に戸惑う妊婦も多い。


そこで、周産期医療を専門とする埼玉の瀬戸病院では、最寄りの駅前に分院を作り、マタニティヨガを開催する等といった、妊婦同士の輪を広げる活動を行っている。出産後、仕事復帰した女性たち向けに、保育園などに預けることができない病気の子供たちの面倒を見る「病児保育」も実施しており、利用者は年々増えているという。


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瀬戸病院 病児保育「もりもり保育室」のご案内

病児保育とは・・・
どうしても休めない仕事があるのに、お子さんが急な発熱!
そんなとき、保護者の方に代わって、専任の看護師や保育士が病気のお子さまをお預かりします。

もりもり保育室は、所沢市から委託された子育て支援事業で23年10月に開設されました。安全第一に、お母様も安心してお子様をお預かり頂けるようつとめてまいります。



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また、最近では様々な企業で託児所が設けられるなど、女性が子供を産み、育てられる環境を作ることに目が向けられ始めている。


今こそ女性たちには、改めて妊娠・出産も含めた人生設計を見つめ直してほしい。改めて言うが、妊娠も出産もゴールではない。そこが子育てとこの国の未来を創る子供の人生のスタートなのだ。


(終わり)

2015/10/23

『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編  ③

(※ これは2012年11月22日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編  ②の続き


不妊治療を行う25の施設からなる「日本生殖補助医療標準化機関(JISART)」の元理事長・高橋克彦氏が解説する。


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JISARTとは不妊治療を専門とするクリニックによって結成された団体です。子どもが欲しいと願うご夫婦に安心して、満足できる医療を受けていただくことを目的として活動しており、現在、全国27施設が加盟しています。



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「一番の原因は、生殖補助医療(体外受精などの不妊治療)の無益な繰り返しです。たとえば現在、体外受精を行っている人の4分の1は40歳以上ですが、一般論として、この年代の人は3回目までに着床・妊娠しなければ、統計的に4回目以降はほぼ無益な治療だと言えるのです。しかし、日本では不妊治療が標準化されていないため、希望すれば、何歳の人であっても、何度でも繰り返すことを不思議と思いません。だから、治療周期あたりの出生率が極めて低いのです。


JISARTの調査では、対外受精をした40歳以上の人のうち、採卵あたりの出生率は42歳までは7〜8%。ところが、43歳以上となると、たったの1%なのです。これは治療とは言えません。でも、『1%でも可能性がある』と捉える人もいるのです」


さらに、出生率低下に拍車をかけるのが施設の「質の低さ」である。


「生殖補助医療の全登録施設(約600)のうち、半数以上が年間の治療(採卵)実施回数が100回にも満たない施設なのです。この分野は医療技術や機器の進歩が著しい。対外受精や顕微授精などは、培養士やカウンセラーなど、経験豊富な専門家が揃ってはじめて成り立つのです。専門的な治療がきちんとできている施設は、おそらく100もないでしょう」(同前)


JISARTに参加する25施設ではガイドラインを作った上で、施設同士による相互の検査態勢を整えることで質の担保に努めるが、他の施設では経験も少なく、技術もアップデートされていないところが多数心材するのも現実だ。


ある医療関係者に言わせれば、「不妊治療は歯のインプラント治療や視力矯正のレーシックと同じで、医療機関によって、そのレベルはまったく違う」という。


この質の低さは、出産現場にも悪影響を与えている。前出の久保医師が嘆く。「多くの不妊治療の施設にとって妊娠成立が“ゴール”となってしまっています。結局、妊娠させるだけで、自分たちの役割が終わったと思っているのです。だから高齢出産のリスクの説明をせずに不妊治療を開始することが多い。ようやく妊娠できたと高齢の妊婦がいざ出産を目的に、我々のような周産期の病院に来たとき、初めて『こういうリスクがあります』という説明を受けることになる。そして、リスクを知らされた妊婦が言葉を失う場面に我々は何度も出くわすのです」


そもそも、現代医療に欠かせない患者の重大な権利は「十分な説明と納得して受ける治療」だと言われる。母親が自分の状況を客観的に把握することこそ必要なのである。前出の向田医師もこう話す。


「妊娠は危険であると判断せざるを得ない、と感じるほど高齢の女性もいます。彼女たちに対して、われわれ医師は『やめましょう』とは言えません。ただリスクを背負うことになるのは、親以上に、子供だということを認識しなくてはいけません」これまで挙げてきた諸問題は少しでも早い年齢で子供を産むことで軽減される。そして、不妊に悩む夫婦も、早くから治療を行うことで、妊娠・出産へと導ける可能性は十分ある。


一方で高齢出産そのものの権利も守られていくべきだ。久保医師はこう話す。


「高齢者の妊娠・出産は悪いことではありません。ただ、リスクが消えるわけではなく、それでも産みたいのか、という選択と覚悟が必要なのです。例えば40歳を越えていても、リスクを知った上で、自分たちの子供が大きくなるまでを考えて人生設計できているのであれば、当然妊娠すべきだと思いますし、その権利もある」



続く
2015/10/22

『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編 ②

(※ これは2012年11月22日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


『新型出生前診断』の問題点について その15 週刊文春「あぶない高齢出産」後編 ① の続き


出生補助医療施設として国内トップの水準にある広島HARTクリニックの向田哲規院長はこう断言する。「地球上に人間が産まれてから、ここまで遅く出産が行われた時代はありません。女性の平均寿命が86歳になったからといって、整理が60歳まであって、50歳でどんどん出産できるようになったというわけではないのです。生殖適齢期は延びない。今も昔も50代になれば閉経するし、排卵は終わるのです」


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そもそも、妊娠の適齢期は25~29歳といわれて、WHO(世界保健機関)でも「卵子の老化」は27 歳頃を境に始まるとされているが、こうした基礎知識が全くと言っていいほど行き届いていない。不妊に悩む人たちの、 “駆け込み寺”となっている「Fine」の松本亜樹子理事長は話す。


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〜不妊はあなた一人の悩みではありません。みんながつながれば、何かが変わる〜


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「私は講演会などで話す時、よくクイズを出します。『女性の生殖年齢のピークは何歳でしょう?』と。すると、みなさん大体『35歳』だと答えるんですね。人によっては『45歳』という人もいるほどです。


特に、いま40歳以上の方々は学生の時に、『セックスしたら妊娠する』とは教えられていても、年を取ったら妊娠しづらくなることは教えられていない。それを後から知って『もっと若い時に産んでおけば良かった』と後悔する人が本当に多いのが現状なのです」


松本氏自身がそうだったという。彼女も望んだ結果を迎えてはいない。


「私自身、20代の頃はバリバリ働いていたから、結婚も30歳と少し遅かった。もし早く子どもを産んだほうがいいということを知っていれば、人生設計も変わっていたと思います。本当に子供が欲しかった。『2歳違いで3 人産んで、女、男、女の順番で、バレエを習わせて』なんてことを計画していましたけど、うまくいかなかった」


不妊だけではない。高齢になるにつれて、妊娠・出産に伴うリスクはがぜん高くなる。44頁の表を見れば一目瞭然である。


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まず、40 歳以上では自然分娩が半分になり、帝王切開のが倍以上になる。さらに母体死亡の確率は29 歳以下を1とした場合、16倍にもなるのである。


日本医科大学多摩永山病院の中井章人医師が説明する。「人口動態統計の数字では、10万人あたりの母体死亡の人数は平均で4.4人(04年)。ところが、40~45歳26.6人。45歳以上となれば、200.4人と激増するのです」


じつは多くの妊婦が亡くなっているのである。母体だけはない。新生児リスクでは、子宮内胎児発育遅延(SGA)の割合はほぼ倍。また、新生児の死亡数も1.3倍に、心臓に奇形が出る心奇形は4倍、染色体異常は10倍となる。



高齢出産のリスクは漠然と理解されているが、こういったデータを正確に把握している人は少ない。多くの女性から不妊の相談を受けている前出の松本氏でさえ、これらのデータを見て絶句する。「数字で見るとぞっとします。女性たちがもういう怖いデータからはつい目を背けてしまう。赤ちゃんの可愛い写真や他人の成功体験など、理想ばかりをイメージしてしまいがちです。


ただ、高齢出産を命がけでやりたいという妊婦は応援したいし守りたい。でも現実には、高齢出産のリスクには、高齢出産のリスクに詳しく対応可能な施設は多くはないと聞きます。我々のところに来る妊婦も、たとえば有名人の高齢出産のニュースに接すると『よかったね』という話になる。その裏に隠れているリスクの詳細については、報じられていないので話題にも上がりません」


そして、前述したように日本は〝世界一の不妊治療大国″である一方、その結果である出生率は、〝先進国最低のレベル″なのである。



どうしてこのような現象が起きるのか。


続く
2015/10/22

『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編 ①

(※ これは2012年11月22日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」④ の続き


「あぶない高齢出産」後編 「不妊治療大国ニッポン」出生率は先進国最低治療回数はダントツ世界一なのに・・・ 週刊文春 医療ジャーナリスト 伊藤隼也+本誌取材班 2012.11.22


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高齢出産が増加する仲で朗報だと思われた「新型出生前診断」。その隠された危険性について書いた前回の記事は、医療界に大きな衝撃を与えた。今回はその後編。高齢出産が抱える本当のリスクと、じつは “先進国最低レベル”の日本の生殖補助医療の現状をリポートする。

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出生率の高齢化は留まることを知らない。


左表を見て欲しい。高齢出産の対象となる35 歳以上の割合は、1985年当時は約7%だったのが、2010年では約24%と、3倍以上に上昇している。


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2002年に、国の成育医療(小児、周産期、成育など)の先端を担う、 “総本山”として開設された国立成育医療研究センターでも、当初28%程度だった高齢出産の割合はいまや56%ほどにまで増えた。


周産期センター医長・久保隆彦医師が話す。


「自然妊娠率は加齢と共に減少していきます。排卵部の2日前のタイミングの妊娠率の統計では、19歳から34歳まではだいたい40%以上が妊娠します。それに比べ、35歳から39歳まででは30%を下回る。年齢を重ねるほど卵子は老化し、女性の妊娠する力は落ちるのです」


先週号でも触れたが、昨今、有名人がかなりの高齢で出産をし、メディアがその美談的側面だけを取り上げている。それらの “吉報”は、ともすれば「医学の進歩で高齢でも安全に妊娠・出産ができるようになった」という誤解を生んでいるが、それは幻想であり、正しい情報が社会に共有されていない事に他ならない。


周知されていないが “日本は世界一の不妊治療大国″である。日本で不妊治療を実施する施設数は622ヵ所。年間の治療回数である治療周期数は21万1千件を超え、いずれも米国の約1.5倍(次項参照)。ダントツの世界一なのである。


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だが、出生児数に目を移すと米国の約6万に対し、日本は約2万6千。つまり、やたらと不妊治療を行うが、出生数には結びついていないのだ。


この背景には、現代産科医療への過剰な期待と、妊娠・出産に対する基礎知識の欠如があると言っていい。


『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編 ②





2015/10/20

『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」 ④

(※ これは2012年11月15日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」 ③ の続き


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「お腹の子がダウン症だとわかって悩んでいる」お母さんに向けたメッセージ(日本語訳)





2月9日。未来のママ(ダウン症の子供を妊娠した女性)からメールが届いた。

「私は妊娠しています。その子がダウン症があることがわかりました。とても怖いです。どんな人生がこの子をまっているのでしょうか」

これから彼女にこの動画を通して返信しますーーーーーーーーー



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彼女が診断を受けたクリニックでは、ダウン症と診断された場合、やはり8割以上の妊婦が中絶を選んでいるという。だが、妊婦たちが正しい知識をもって判断したとは思えない。日本では、産婦人科医でさえもダウン症を正しく理解していない人がいるからである。


「ダウン症は数ある先天的な障害のなかでも軽度の障害、それが医療界の常識です。その障害も様々で、長生きできるケースも多い。ダウン症の子供やその親に対しての保護に関して、全く議論がされないまま、検査が導入されてしまうのは非常に危険です」(前出・篠塚氏)


そもそも、ダウン症の人が日本に何人いるのか、5万から6万人と言われるが、正確な数字すら分からないのが現状だ。前出の中込氏によれば、実際に妊婦にカウンセリングをすると、母親は驚くほどダウン症の知識を持っていないという。


「ダウン症が寝たきりだと思っている方もいるほどです。彼らは学校へも行けるし、家族と楽しく過ごせる。それらを妊婦に説明すると、検査をしない方がほとんどです。裏を返せば、多くの人がそういう認識ですから、今はダウン症の人々を育んでいける社会ではない。その状況で、『夫婦で相談してください』と自己決定を促すのは凄く不親切な対応だと思います。知る権利を押しつけている」



事実、ダウン症の人々は様々な分野で活躍している。岩本綾さんは、ダウン症として日本で初めて4 年生大学を卒業した。彼女は今年39歳になる。日本語、英語、フランス後の3カ国語を操り、絵本の翻訳に携わっているという。筆者の取材に、ゆっくりした口調でこう話してくれた。


「実は、私は自分をダウン症だと知ったのは、大学2年生の時でした。父から宣告を受けました。自分がダウン症だという事を、うすうす感じてはいましたけれど、実際言われるまでは知らなかった。ショックで、自分の部屋に戻って泣きました。でも、ダウン症があったから今の自分がいるんです」


今回の新型診断の問題については、こう言葉を絞り出す。


「個人としては反対です。偉そうには言えませんが、この検査に対しては、怒りと言うよりも悲しい。やっぱり受けないでほしいというのが実感です。私は生きている素晴らしさを今、実感しています。ダウン症は個性だという言い方をされますが、私は目に見えない障害だと思っています。乗り越えられそうだと思っているので、その壁が崩れて、優しくなれる社会であればいいな、というのが私の願いです」


DNAの解析は、まだまだ未知の分野である。今回の新型診断に限らず、もしもすべての染色体の情報を調査したところで、その人間がどんな疾患を抱えることにあるか、まったくわからない。だが、こういった遺伝子診断により、本来は治療に生かされるべき診断結果が、本末転倒ともいえる事態を引き起こすのである。


現にアメリカでは遺伝子診断で将来乳がんになる可能性がある女性が、がんを発症する前に乳房を切り取ってしまう、というケースが起きているのだ。


DNA診断が罷り通れば、遺伝子の優劣で人を判断してしまうことに繋がりかねない。そこに待ち構えているのは危険な優生思想である。新型診断を我々はどう捉えるべきなのか。そして、この背景にある高齢出産の増加という社会問題をどう解決すべきか。日本の医療、ひいては社会の大きな分岐点に立たされているのである。(以下次号)


『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編 ①

2015/10/19

『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」③

(※ これは2012年11月15日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」② の続き


だが本来、この問題の先頭に立つべき厚労省の危機意識は。まったくもって低いといわざるを得ない。


前厚労大臣の小宮山洋子氏は、読売の一報を受けて、8月31日の記者会見でこう話している。<出生前診断は生命倫理を考えても難しい問題。今は日産婦学会が議論をしているので、当面は見守っていく。今後は連携しながら、必要な対応をしていく。


出生前診断については、ガイドラインの発表と臨床試験の導入は同時に発表するべきものだった。しかし、検査の方が先に報道されてしまったので(学会には)早急にガイドラインを策定してほしい>


つまり、厚労省は議論を日産婦学会に丸投げしたのである。当の日産婦学会は、小誌の取材に対し、「進行中の案件につき、お答えできません」と回答するばかりだ。実際には学会内では箝口令が敷かれているという。これほどの危機的状況にありながら幅広く議論を行う気がまったくないのである。


この新型出生診断は、血液を採取するだけで受診できるため、産婦人科だけでなく小児科や内科医でも行える。当然、産婦人科だけでなく、医療界全体で議論されるべき問題なのだ。さらに言えば、医療関係者だけでなく、国民を巻き込んだ幅広い議論が必要な「命の選択」を含む問題である。


一学会の、ほんの一握りの人間が先導しているという、いびつな構造を看過してはならない。


日産婦学会は公にしていませんが、彼らの言い分は “この検査が日本に入ってくるのは不可避であり、これを受け入れるためには出生前診断を受ける母親に対して適切な『遺伝カウンセリング』が必要である。そのために新型の臨床試験を実施すべきだ”というものです。


しかし、現状でも行き届いていない遺伝カウンセリングを、適切に行えるとは到底思えません」(前出・医療関係者)



本来の遺伝カウンセリングとは、検査の前後に、検査の特徴やその影響などの情報を提供し、妊婦や患者などが自らの判断に基づいた選択ができるようにサポートするもの。しかし、現在の遺伝カウンセリング体制は明らかに不十分であると、山梨大学の中込さと子教授が指摘する。


「日産婦学会の主催する検討委員会の考える遺伝カウンセリングとは、検査についての情報だけです。妊娠や出産、産後、あるいは中絶を選択した場合でも、母親が求める限り、最期まで責任を持ってケアをしていくのが本来の周産期のカウンセリングのはずです。これは今までの助産師が果たしてきた役割なのです。それをいきなり検査段階に限定してカウンセラーを導入したとしても、機能するはずないと考えます」


●産んだ先の “出口”が見えない


新型診断が導入されれば、検査結果を知った妊婦には「中絶するか否か」という選択が露骨につきつけられることになる。


しかし、現在の日本の環境では、「産む」という選択を選びにくいと言わざるを得ない。産んだ先の “出口”が親にとって非常に見えづらいのである。現代の日本社会で、ダウン症の子供を産んで育てられるのか。その不安に応えるべき遺伝カウンセラーが出生前診断という一場面にしか関与しないという状況で、妊婦が産まないという選択をしたとしても、その決断を誰も咎めることはできないだろう。


一方、現実には中絶をしたとしても、その後には埋めがたき喪失感が残るのである。筆者はそういったトラウマを抱えた女性たちの話を聞いたが、その忸怩たる思いは生涯消えることはないだろうと感じた。


実際につい最近、出生前診断を受けた41歳の妊婦はこう話した。「検査を受けたのは、不安を抱えて10ヶ月を過ごすことが精神的に辛かったから。技術が無ければ、受けるかどうか、悩むこともなかったと思います。でも分かるのであれば、知りたい。それが本心です。結果的に子供はダウン症ではありませんでしたが正直に申し上げて、ダウン症なら諦めようと思っていたんです。やはり高齢ということもあり、私たちが死んだ後、この子はどうやって生きていくのか。それを考えると、産むという選択は難しかったと思います」


『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」 ④




2015/10/17

『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」②

(※ これは2012年11月15日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」①の続き


●4万円検査で日本進出を画策


全く知られていないことだが、そこには価格破壊とも言える費用で、同様の検査を提供しようという中国系検査会社の日本進出があるのだ。そして今回の取材で、その背景には、「ダウン症の治療費をとにかく削減したい」という中国の乱暴ともいえる国家的戦略があることが判明した。


問題の企業は、中国・深圳を拠点とする「BGI」社(正式名称・深圳華大基因研究院)。ゲノム解析を行う中国最大手検査会社である「科学院」のゲノム関連プロジェクトをほぼ一手に引き受けており、内実は、ほぼ国営企業だと考えていい。


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※ 文春の記事にある、中国の検査会社「BGI」が日本法人を神戸に開設したのは2010年で、2011年11月に営業を開始したそうです。BioGARAGEの記事には、ちょうどこの頃、日本国内のバイオビジネス、ベンチャーにどのような動きがあったのかが記載されています。また、ジーンテック社の衛生研究所「GeneTechかずさラボラトリー」が「かずさDNA研究所」に設立されましたが、この研究所が、どのようなサービスを提供しているかについても記載されています。



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じつは8月初旬、同社の日本支社であるBGIジャパンが、日本産科婦人科学会(日産婦学会)に、秘密裏に接触している。


内情を知る別の医療関係者が真実を明かす。


「BGIの話は、新型診断の一種であるダウン症の有無だけを調べる遺伝子検査を、わずか4 万円で提供するというものでした。さらに『無料でお試し検査』を実施してもいい、という提案もあった。要するに日本の進出プランを持ちかけてきたのです。ただ、日本で検査を行うには準備不足であり、拙速だと日産婦学会側は注意をしたのです」


BGIの薦める遺伝子検査は、シーケノム社の新型診断とは決定的に違う。BGIの検査は、21番目の染色体のみを対象とする。つまり、その胎児がダウン症かどうかだけを判定するのだ。これが圧倒的な安価の理由である。BGIはこの格安検査を、すでに世界中で約23万件も行っており、昨年9月には、神戸市に日本支社を設立した。同社が日本進出を目論んでいることは明白だ。


●DNA情報が中国に流出


日産婦学会は、このBGIからの接触の事実を明らかにしていないが、実際には向こうに突き動かされる形で事態は急展開した。


「BGIに対応したのは、日産婦学会の出生前診断に関するワーキンググループのトップである横浜市立大学の平原史樹教授です。彼は1度は申し出を拒否したにもかかわらず、一方では『中国が入ってくるから、早く検査を導入するべきだ』と、シーケノム社と検査の導入に向けて進んでいた研究者と共に、臨床試験開始への動きへ加速したと言われている。いわば、中国進出の情報に踊らされたのです」(同前)


それをスッパ抜いたのが冒頭の記事だったのだ。


じつは13億人もの人口を抱える中国国内では、ダウン症の治療費が毎年20億元(約250億円)を越えている。それが国家財政を圧迫させていると、中国は国家戦略として新型診断を積極的に導入し、ダウン症の子供が増えないよう、「命のスクリーニング」を実施しているのだ。およそ日本人の生命倫理とは相容れない、恐ろしい合理思想である。


命を軽視するこの隣国の遺伝子ビジネスが、まさに今、野放図に日本に輸入されようとしているのである。


前出の篠塚氏は強く警鐘を鳴らす。


「実のところ、BGIが日本の医療機関と直接契約を結ぶとなれば、それを規制する術はありません。新型診断は薬事法の管轄外であり、取り締まることは出来ません。保険診療にはなりませんが、医師の裁量でいくらでもできる。いわば、やり放題です。


加えて、DNAは究極の個人情報でもあります。検体である母体血のデータは、当然、中国本土に持ち帰られる。日本人のDNA情報がどんどん流出することになるのです。正直、あの国で、それが何に使われるかは分からない。本当ならば、この検査は日本の検査会社が、国の認可のもとで行うべきなのです」


『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」③




2015/10/16

『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」①

(※ これは2012年11月15日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


「あぶない高齢出産」 中国系企業が参入 格安「出生前診断」に気をつけろ!週刊文春 医療ジャーナリスト 伊藤隼也+本誌取材班


<妊婦血液でダウン症診断国内5施設 精度99%、来月にも>(読売新聞・8月29日付朝刊>


悪い意味で、この記事のインパクトは大きかった。妊婦の血液にわずかに含まれる胎児のDNAを調べることで、ダウン症が99%以上の精度でわかり、他にも重い障害を伴う別の2種類の染色体の異常がわかる。この米国シーケノム社の技術を昭和大や慈恵医大などが導入する。これにより、妊婦の腹部に針を刺して羊水を採取する羊水検査に比べ、格段に安全にわかるーーー。


この記事を嚆矢(こうし)として、メディアはこぞって出生前診断の話題を取り上げ、各病院には「新型診断を受けたい」という妊婦からの問い合わせが殺到した。


高齢出産が増加し、メディアが芸能人の高齢出産を過剰に礼賛するなかで、やはり今回の新型診断は、技術的な安全性ばかりがクローズアップされた恰好だ。


しかし、この新型診断は、とてつもなく大きな問題をはらんでいるのである。ご存じだろうか。現在の日本で、羊水検査などの出生診断において胎児のダウン症が判明した人の約9割が中絶という選択をしている、という現実を。


現在は羊水検査の実施率は低く、前妊婦の1%程度に留まって。だが、35歳以上の高齢出産の増加と共に、出生前診断の件数は増加しており、中絶件数もそれに伴って増加しているのだ。


だが、大前提として、出生前診断の本格的な目的は、胎児の異常を事前に診断し、早期の治療や教育に役立てようというものである。


出生前診断の一つであり超音波診断の専門家で、胎児医学研究所の医師篠塚憲男氏が話す。「例えば超音波診断で、心臓の疾患が発見された場合、出産後の手術で治療できる可能性などを説明した上で、適切な施設や医師を紹介するなどして、診断後の道筋をつけてあげます」ハイリスク出産が増えている現状で、命を賭けても出産すると決意した妊婦たちを支え、あくまでも正しい〝出口″を見つけるために出生前診断はある。


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(※ 篠塚憲男医師のインタビューを見つけたので紹介します。超音波検査について知らないことばかりで驚きました。患者と専門家との知識や意識の差にかなり隔たりがあるように思います。興味がある方は是非「プレママタウン」へ)


日本では胎児条項の規定がなく法律的に曖昧なまま今日まできています。超音波検査を胎児スクリーニングとして広く行うかは別として、NTや妊娠初期の血清マーカー等に関しては、日本における基準値などを設定しておくことは医学的に必要だと考えています。

しかし、この問題は、医学界だけで解決できる問題ではありません。もちろん、直面した妊婦さんだけが考えればいいという問題でもありません。政治、経済、宗教、哲学……といった問題にまで行き当たってしまうテーマです。日本人のひとりひとりが、どういう社会を望むのかを考えていき、それを共通のコンセンサスとしていく、その努力が必要だと思っています。



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さらに「新型診断」は報じられているような〝万能の診断″ではないという。


医療関係者が説明する。「『99%』というのは誤った数字です。検査の技術面から考えて確定診断にはなり得ない。しかし、インパクトが大きかったために、数字が一人歩きしてしまった」


だが、新型診断の導入に向け、一部の医療関係者は性急な動きを見せている。例えば、国立医療研究センターでは、検査導入を議論する院内の倫理委員会で、3回目にしてようやく反対意見をねじ伏せ、10月9 日に計画を通過させた。今後、実験的に検査を行う臨床試験を予定している。


そもそも日本の医療界は、生命倫理的にも非常にデリケートな、この新型診断の導入について、それこそ恐る恐る、亀の歩みで検討を始めたばかりだった。


シーケノム社が開発した、この新型診断が注目を集めたのは、今春、マイアミで開かれた国際出生前診断学会だった。同社はこれまでに約1 万件の検査を行っている。検査費用は1件につき、日本円で約21万円。学会での発表などを受けて、この新技術について日本医療界でも日本人の母体血を使って臨床試験をはじめるべきでないか、という議論がスタートしたばかりだったのだ。


ではここに来ての慌ただしい展開は何なのか。


『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」②

2015/10/15

『新型出生前診断』の問題点について その13  私が『周産期医療の崩壊をくい止める会』から離れた理由

私が『周産期医療の崩壊をくい止める会』から離れたのは、不妊治療に対する考え方の違いも大きかった。


『周産期医療の崩壊をくい止める会』は、大野病院事件で逮捕起訴された産科医の裁判を支援してきた会で、ある研究室に事務局が置かれていた。研究室を主催しておられる研究者は周産期医療に関わる医師ではなく、高度医療を普及させるために、メディアをはじめ、社会にどう働きかけたらいいのかを研究しておられた。つまり、『周産期』と名前がついているけれど、もともとは周産期医療の関係者がつくった団体ではなかった。


そうしたバックグラウンドを知らずに私は会の活動に参加した。だから、ある時から次第に心の距離を感じるようになっていった。例えば、不妊治療に対する考え方は私とはちょっと違う。こんな感じだった。


不妊治療は基本的に自由診療だから、患者さんの希望に沿って治療が行われる。そのため、優秀な医師をはじめ、スタッフも集まり、収益が研究に投資できる。医療崩壊が著しい我が国で、ドル箱の医療であるーーーー



確かに我が国の不妊治療のレベルは高い。


しかしそれは一面でしかない。日本はレベルは高いけれど、治療を行うクリニックは乱立しており、泣いている女性も多い。少なくとも私のまわりで長い治療の末出産できた人、治療を行う医師も含め、「素晴らしい医療」と手放しに評価する人はほとんどいない。


そのような現状があるのに、医療が崩壊しているからといって、「収益」が上がれば、それでいいのだろうか。産まれてくる子供の知る権利が後回しにされているなど、足りないものもたくさんある。


私は次第に会の活動のあり方に疑問を感じるようになった。


川鰭市郎先生活動に心を動かされたのは、救われた命だけなく、救われなかった命に対する思いやりを感じるからだ。そして、新型出生前診断が導入されてから、「ダウン症についてもっと深く知ろうよ」と、医療者に働きかけてきたことは素晴らしいと思う。



独立行政法人 国立病院機構 長良医療センター

●2013年04月のレター
https://www.hosp.go.jp/~ngr/cnt0_000106.html


3月30日に講演会を開くことはお知らせしましたね。満開の桜に迎えられた岩元綾さんとお父様の昭雄さんの講演会。会場の定員は80名だったんですが、とうてい足りそうもないんです。長良医療センターのみんなが協力して補助いすを大量に運んでくれました。会場で配る資料も、当初は150部用意したんですが、後から50部追加しました。実際会場は立ち見まで出る盛況で、正確な数は分からなくなってしまったんですが、定員の2倍以上の方が参加してくださいました。


お父様、昭雄さんのお話から始まりましたが、参加された皆さんは一言たりとも聞き漏らすまいと、じっと聞き入ります。ひらがなよりも漢字をしっかり教えること、話す、読む、書くことの継続が大切と熱のこもったお話をいただきました。そして綾さんが登壇します。ちょっと風邪気味とおっしゃってましたが、綾さんが国際会議で行った英語のスピーチを交えながら、英語での絵本の朗読も含めて約1時間にわたってお話ししてくださったんです。会場にはさわやかな感動が広がっていきます。


東京から駆けつけてくださった医療ジャーナリスト伊藤隼也さんも加わって、質疑応答を行いました。最後に綾さんにメッセージを皆さんに、とお願いしたところ「岐阜は私の第二のふるさとになりました。桜がとてもきれいでした。皆様の幸せの形が桜色になることをお祈りします」万来の拍手で講演会が終わりました。


私たちはダウン症にどんな能力が備わっているのか本当に知っているんでしょうか。岩元綾さんは本当に稀な成功例なんでしょうか。さまざまな医療や教育のあり方が変わることで、ダウン症の皆さんの環境は大きく変わるのかもしれない、綾さんのような方がもっと増えてくるのかもしれない、心の底からそんな気持ちになりました。



川鰭先生の「かわばたレター」を拝見すると、講演会には伊藤隼也さんが参加したことがわかる。


もしかしたら先生は、伊藤隼也さんが2012年11月に、週刊文春で発表した『新型出生前診断』の特集を読んで、心を痛めたお一人なのだろうか。実は私も伊藤さんの記事を読んで、驚いた一人だったからよく覚えている。川鰭先生が講演会をお願いしたという、岩元綾さんのことを、この特集ではじめて知ったからだ。ダウン症のお子さんを育てている友だちに『新型出生前診断』をどう思うかたずねたほどだ。


この特集には、後編もあり、不妊治療のダークな部分にもきちんと触れている。今、改めて読むと興味深い。『新型出生前診断』がどのような経緯で導入されたか、時間がたった今だからこそ、みえてくることもあるからだ。


伊藤さんにお願いして、この記事を全文引用させていただくことにした。


次回から掲載していきます。今回もまた、快諾してくださった医療ジャーナリストの伊藤隼也さんと、記事を掲載してくださった週刊文春の皆様にお礼を申し上げます。


『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」①