2014/07/03

『水俣病』から『募金活動』そして『子宮頸がん予防ワクチン』問題へ

5月14日に行われた、子宮頸がんワクチン問題、院内集会での西岡久寿樹先生の講演をユーチューブで聞いた。西岡先生といえば、リウマチの権威。著名な医師だ。


子宮頸がんワクチン問題 院内集会 '14.5.29 ②西岡久寿樹先生

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医師として、医療に関わるものとして
今回のような状況を招いたことを
心からお詫び申し上げます



西岡先生が被害者とご家族に謝罪する姿に立派な医師だと思った。「誰が悪い、という問題でなく、目の前の患者さんを救いたい。治療法を確立させたい」という姿勢にも共感する。


西岡先生のインタビューは集英社のサイトにもある。


画期的な薬剤を国内で普及させる時、患者さんに投与するだけなく、最後まで責任を持つ、というのが正しい姿ではないだろうか。「異論の出ない社会は崩壊する」という意見は私もその通りだと思う。


子宮頸がんワクチンの被害は二つの意味できっと特別なものになるだろう。一つは、被害者には、医療者のご家族が多いと言われていること。もう一つは、被害が中枢神経におよぶだろうということだ。


夫は免疫の研究者でもあるから、緊急性のある場合をのぞき、新しいワクチンをすぐには信用しない。しかし、同じ免疫の研究者でも、がん治療に関わる臨床医の友人は違う。毎日のように、がんで亡くなる患者さんを目にしているから、「予防できるワクチンがあるならうった方がいい」と私に言っていた。


センセーショナルな報道といわれる副反応報道だが、目で確かめることは重要だ。


友人は被害者の様子を報道で知ってから180度意見が変わった。彼の専門は『B細胞』。ノーベル賞を受賞した著名な研究者の共同研究者のラボに留学した経験がある。見た瞬間、「中枢神経に影響があるだろう」と思ったそうだ。


※  ※  ※



私は自己免疫疾患ではないかと考える。水酸化アルミニウムがアジュバントに良いと言われ出したのはもう随分前。これが原因かもしれない。

あるいは遺伝子組み換えでタンパクを作ったときに何か別の抗原たんぱくができたのかもしれない。単なるペプチドとアジュバントであれだけの神経系の副作用が出るというのは尋常じゃないと思う。免疫反応だと考えれば、後で起こったり繰り返すことは説明がつく。
おたふくかぜワクチンの占部株による髄膜炎とも随分違う。

ポリオの生ワクチンも危険はあるが、低い頻度でポリオを発症するのは自己免疫でなく感染症によるもの。だから理解はしやすい」



※  ※  ※


B細胞 wikipedia より一部引用

B細胞(びーさいぼう、B cell、B lymphocyte)はリンパ球の一種。

性質

抗体は特定の分子にとりつく機能を持った分子で、その働きによって病原体を失活させたり、病原体を直接攻撃する目印になったりする。そのため、抗体を産生するB細胞は免疫系の中では間接攻撃の役割を担っており、その働きは液性免疫とも呼ばれる。

B細胞は細胞ごとに産生する抗体の種類が決まっている。自分の抗体タイプに見合った病原体が出現した場合にのみ活性化して抗体産生を開始することになる。また、いったん病原体が姿を消しても、それに適合したB細胞の一部は記憶細胞として長く残り、次回の侵入の際に素早く抗体産生が開始できるようになる。

この働きによっていわゆる「免疫が付く」(免疫記憶)という現象が起きており、予防接種もこれを利用したもの。



※  ※  ※



もしも「抗体」が見つかれば、と友人は教えてくれた。でも。「抗体」は簡単に見つかるもの?西岡先生が謝っていらっしゃるのはなぜ?


今、被害連絡会に連絡をするのは比較的初期の段階で接種した被害者だと言われている。今の時点で被害者に医療者のご家族が多いというのは、ここに書かなくてもその理由がわかる人にはわかるだろう。


推進派で有名な議員さんの意見が突然、180度変わったのは意味がある。このワクチンを象徴するような出来事があったということだ。


だからこそ私は心配だ。被害者を心ない言葉で傷つける人達が出てくるかもしれないから。これから先、被害者とご家族が罪悪感をもったりしないように、支えが必要じゃないかと思う。被害者のおかれた厳しい現状を知ると、社会に被害を理解してもらうよう、働きかける必要性も感じる。


例えば突然、車椅子で移動しないといけなくなってしまったお嬢さんのために、心の支え、社会的支援が必要じゃないか、と思うのだ。


もともと募金活動の精神とは、医療によって救われた者が、被害者のために手をさしのべる、というものだった。早速、これから医療や教育との架け橋になるような、私にできることをさせて下さい、とお願いした。


ところで、この問題を考える時、引き合いに出されるのは『水俣病』だ。


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チッソ側代理人のお嬢さんとお孫さんに
いただいたペンダント


私の手元にはチッソ側代理人だった弁護士のお嬢さんとお孫さんにいただいたペンダントがある。このワクチンの被害もまた「中枢神経」に影響があるようだ。


夫が免疫の研究をはじめたのも、息子が高度医療で救命されたのも、私が薬害被害者になったのも、意味があるのかもしれない。


見えない強力な力で、私は引き寄せられたのかもしれない。


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子宮頸がんワクチン問題 院内集会 '14.5.29 ②西岡久寿樹先生


まず、私も医師としてそして医療に関わるものとして今回のような状況を招いたことを心からお詫び申し上げます。


本当に親身になって僕たちは子どもさん達を、きちんとケアしなければいけない。こういうことが起こっているんだということを冷静に見つめなければならない。


繊維筋痛症をケアする立場として、子どもさん達から学びました。それだけに、僕たちは誰が悪い、かれが悪いって言ってないで、その悩んでいる子ども達、痛がっている子ども達を、どういう風にしたら治療のレベルにおけるのか、ということを真剣に検討しています。


で、いろいろなこの病気の症状を考える時に、やはり従来の病気に考え方ではなかなか判断できない症状があります。


やはり広い視野からこの病気を見つめてみると、やはりどうみても中枢神経の炎症があると、非常に説明がつきやすい、ということになっています。


じゃあ、そういう病気があるのかと、突然起こるのかというと、そういうことはありません。


ですから、治療はどういうことになるかというと、そこの炎症をきちんと押さえることだと思います。


だから今、僕たちは臨床に現場で、とにかく患者様に少しでも、方向が出るような、私は今までいくつか難病にいくつか関わってきましたけれども、治療法を駆使して本当に被害にあわれた子どもさん達に早急に提示したいと思います。


私は来週からモスクワに行きますけれども、そこでもこの問題を大きく取り上げていただくことになると、僕は特別に講演することになりました。海外に向けて、僕たちの意見をどんどん反映(?)させていきたいと思います。


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子宮頸がんワクチン問題を追う  斉藤貴男 集英社インターナショナル 


(今年4月に発足した、HPVワクチンに関する副反応原因究明チームの中心人物、西岡久寿樹東京医科大学医学総合研究所所長へのインタビューより一部引用)


―― ワクチンとの因果関係は明白だ、と。


「単純なことです。私はいろいろな難病の解明に取り組んできましたが、普通は原因を探し出すのが大変なんです。それには、まずは症状の共通性を考えるところから攻めていく。


スモンでも水俣病でも薬害エイズでも、最初は何もわからなかったはずですよ。


疫学的なデータを集めていくうちに、特定の地域、たとえばどうも水銀が流れる川の下流に水俣病が多発しているようだなどというように実態が、少しずつわかっていった。


今回はHPVワクチンを打ったという共通項がはっきりしているわけですからね。だけど、じゃあ全員に症状が現れるのかといえば、それは違う。


我々の実態解明班のチームでは、接種した子たちのゲノムを解析し、何か起こった子と何も起こらなかった子の遺伝情報を比較対照してみるつもりです



―― 今はまだ平気でも、先々に何か起こるという場合もあり得ますか。


「可能性はあります。だからこそ通常、先端的な薬剤を売り出す場合は、PMS(Post Marketing Surveillance = 製造後調査)というのを製薬会社はしなければならないことになっています。


私たちが1990年代後半、関節リウマチに『抗サイトカイン療法』と呼ばれる治療法を日本人に初めて導入したときも、製薬会社に投与した患者様全員のフォローアップを命じました。


ジャッジメントに当たる委員会はもちろん、製薬会社ではなく日本リウマチ学会におき、そこには厚労省の医薬安全課のメンバーにも入っていただきました。


HPVワクチンはどうですか。世界初のがん予防ワクチンだと言いながら、接種した子の長期的追跡なんてほとんどやってないに等しい。


何人かの知り合いの国会議員に聞いてみたら、みんな例の検討部会に任せているという。肝心の免疫のエキスパートがほとんど入ってないような会合にね。無茶苦茶です」



―― そこで、厚労省の合同会議に対する西岡先生たちの原因究明チームが設置されたのですね。しかも元厚労相がトップの財団に。


「難病治療研究振興財団には厚労省のOBにも理事として運営に関わってもらっています。だけど厚労省に近い遠いなんて関係ない。ダメなものはダメで、いいものはいいんです。


私は医者として当然の良心に基づいて行動していますから。まあ、多くの現場の医師や専門家は心の中ではいろんな思いがあっても、お上には口が出せないという慣習はなかなか消えない。


私の大先輩の黒川清元学術会議会長は『異論の出ない社会システムは崩壊する』と私に異論の勧めを説いています」


西岡氏が力を込めた。


「今後はアメリカやスイス、カナダ、フランス、ロシアなどのドクターとグローバルなネットワークを築いて、連携していきます。どの国にも深い問題意識を持って、きちんとやっている仲間が大勢いますからね。


実際、フランスではこのワクチンを全面的に見直し、原因究明に乗り出すことを国会で決定しています。また、私が近くロシアで講演することになったHPVワクチン副反応についての疾患概念については、ロシア政府も大きな問題意識を持っています」


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製薬会社が「病」をつくり出し治療薬を売りさばく-論文捏造問題の背景にある肥大化したクスリ産業の闇--[橘玲の世界投資見聞録] ダイヤモンド・ザイ 7月2日(水)11時45分配信


スイスの大手製薬会社ノバルティスファーマは、同社の社員が降圧薬のヒット商品バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床研究データの捏造・改竄に関与していたとして、厚労省から薬事法違反で刑事告発された。またアルツハイマー病の治療法確立を目指す国家プロジェクト「J-ADNI」は、国や医薬品業界から9億円強の研究助成金を受け取りながら6年かけて論文の1本も発表できず、プロジェクトを主導していた東大教授がデータ改竄に手を染めていたとして関係者から内部告発されている。



前回、「エイズの原因はHIVウイルスではない」という似非科学がアメリカや南アフリカで広まっていることを書いたが、医学や製薬会社のこうしたいかがわしさが陰謀史観の信憑性を高めていることは間違いない。

 
[参考記事]
●「エイズの原因はHIVウィルスではない」という似非科学はいかに生まれ、不幸を招いたのか


 なぜこのようなことが起こるのかというと、近代医学があまりにも成功しすぎたからだ。


 ワクチンや抗生物質の発見は医療を飛躍的に進歩させ、人類はこれまで手の施しようのなかった多くの病気を克服した。しかしその結果、医学は治療可能な病気のほとんどをカバーしてしまい、残っているのはがんやエイズ、精神障害など原理的に治療が不可能か、きわめて困難なものばかりだ。製薬事業において、ワクチンや抗生物質に匹敵するようなイノベーションはもはやありえない(たぶん)。


 だが薬の特許には期限があり、それが切れたものは他の製薬会社が同じ成分の薬を製造・販売できる。これが後発医薬品(ジェネリック医薬品)で、ノバルティスのような研究開発型の大手製薬会社は常に新製品を市場に投入していかないと利益を維持できないのだ。



 このようにして製薬会社は、開発できない新薬を無理矢理開発するという歪んだインセンティブを持つようになる。こうした弊害がきわめて大きいのが精神病(心の病)の治療薬だ。ここでは精神医学の実態を取材したアメリカ人ジャーナリスト、イーサン・ウォッターズの『クレイジー・ライク・アメリカ』(紀伊国屋書店)に拠りながら、なぜ日本でうつ病が急増したのかを見ていこう。


日本の“うつ病の壁”に挑戦する
 

『クレイジー・ライク・アメリカ』の原題は“Crazy Like US”で、“US”は「私たち」と「アメリカ」をかけている。著者のウォッターズは、アメリカ発の心の病が世界に輸出され、「精神病のグローバリゼーション」が起きていると述べる。


 この本で取り上げられるのは、香港の拒食症、スリランカのPTSD、ザンジバルの統合失調症、日本のうつ病の4つの心の病だ。


 2000年秋、カナダ、モントリオールのマギル大学で比較文化社会精神医学を研究するローレンス・カーマイヤーは、「抑うつと不安に関する国際的合意グループ」という団体から、京都とバリ島で行なわれる会議の案内を受けた。全額主催者負担で、航空券は1万ドルもするファーストクラス、ホテルは宮殿のようなスイートルームでバスタブには薔薇の花が浮かんでいた。会議の主催者は大手製薬メーカー、グラクソ・スミスクライン(GSK)で、日本で抗うつ剤SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)パキシルを大々的に売り出そうとしていた。


 SSRIは従来のTCA(三環系抗うつ剤)をひな型につくられた新薬の一群で、アメリカでは1980年代後半にイーライリリー社がプロザック(一般名フルオキセチン)の商品名で売り出して大ヒットさせた。だがイーライリリーは1990年代初頭、日本への進出を断念する。日本で新薬の承認を得るためには、日本人だけを対象とした大規模な臨床試験のやり直しが必要になる。それだけの年月とコストをかけても、日本にSSRIの市場が生まれる確信が持てなかったのだ。イーライリリーの幹部は、「日本人のうつ病に対する態度はきわめて否定的だ」と考えた。


 それに対してGSKは、日本の“うつ病の壁”に挑戦することを決断し、1999年にパキシルを売り出す許可を得た。だがGSKが莫大な販促費を投じて京都に世界中の精神科医や研究者を集めたのは、新薬の宣伝のためではなかった。


 カートマイヤーはそこで、比較文化社会精神医学の立場から、統合失調症やうつ病などの精神病は文化によって症状の現われ方が異なることを発表した。


 カートマイヤーによれば、アメリカにおけるうつ病の概念こそが、世界的にみて特異な特徴を持っている。アメリカ人は赤の他人に感情をオープンに表現したがり、精神的苦悩をヘルスケアの問題とみなす。それに対して他の文化圏では、こころの苦しみは社会的・倫理的な意味を持ち、共同体の長老や地元の宗教指導者に救済を求める。自分が所属する社会の輪の外にいる医者や専門家に助けてもらおうという考えは意味をなさない。


 カートマイヤーは「人間の苦しみに関する文化の多様性を尊重し、守るべきだ」という警告を述べたのだが、GSKはその発表に満足したようだった。後になって彼は、自分の発表がまったく別の受け止められ方をしたのかもしれないと気づいた。うつ病をめぐる文化的な考え方は、時代の影響を受けて移り変わるというように。


 GSKはパキシル販売のために、日本のうつ病の概念を変えようとしていたのだ。


日本に「うつ」を認知させたのは皇太子妃


 日本ではそれまで、軽いうつは重度の躁うつ病とは区別され、「メランコリー」と呼ばれていた。これは1960年代初頭にドイツの臨床精神病理学者テレンバッハが提唱した「メランコリー親和型性格」に由来し、アメリカではまったく相手にされなかったものの日本では広く受け入れられた。メランコリーが、真面目・勤勉で思慮深く、他人や社会全体の幸福に強い関心を示し、秩序を求め、「並はずれて高い目標を自分に課す」人格特性とされたためだ。日本では軽うつ(メランコリー)は病気ではく、望ましい性格と見なされたのだ。


 これに対して製薬会社は、「うつ病は治療が必要な病気だ」という大キャンペーンを張る。だがそれはきわめて巧妙で、ソフィスティケイトされたものだった。


 GSKのうつ病啓発CMでは、女優の木村多江が「いつからですか?いつから我慢してるんですか? 」と呼びかける。そして画面が変わり、「うつは1カ月、辛かったらお医者さんへ。それ以上我慢しないでください」というナレーションが流れる。


 女優・木の実ナナが『私は、バリバリの「鬱」です』と告白する塩野義製薬の広告では、うつ病への理解促進とともに、新薬の臨床試験の被験者が募集された。


 これは日本では、特定の処方薬について宣伝することができなかったためで、各企業は公共広告の名のもとに、精神的な苦痛を感じているひとに専門医への受診を進めたのだ。


 こうした啓発戦略はマスコミの目の引き、雑誌や新聞・テレビなどでビジネスマンや女性の軽うつが「病気」として取り上げられることが増えてきた。90年代の日本で急速にうつについての「グローバルな理解」が広まったのは、長引く不況によって個人も国家も自信を失っているという背景があった。そしてなにより、日本人に「うつ」という病気の存在を知らしめたのは皇太子妃をめぐる報道だった。


 かつて日本にはアメリカのようなうつ病はなく、抗うつ病の市場もないとされていた。ところがGSKがパキシルを売り出してわずか数年で、忽然とメガマーケットが出現したのだ。


 その結果、日本で「うつ病」と診断されるひとが急増する。し
かしこれは、日本だけの現象ではない。

 
 世界でもっともうつ病の多い国は北欧のスウェーデンで、長く厳しい冬のせいだとされていたが、実はスウェーデンはアメリカ以上に抗うつ剤の処方量の多い国だ。抗うつ剤が普及するとうつ病が増える現象は、イギリスやカナダ、オーストラリアでも確認されており、逆に治験の厳しさでSSRIの承認が遅れたドイツやイタリアではうつ病の罹患率も低い(冨高辰一郎『なぜうつ病の人が増えたのか』幻冬舎ルネッサンス新書)。


 製薬会社はまず「こころの病」をつくりだし、それから病気を治療する薬を大々的に販売するのだ。


製薬会社のキャンペーンによってこころの病が増える


 『クレイジー・ライク・アメリカ』には、ウィスコンシン大学の人類学者、カルマン・アップルバウムによる興味深いフィールドワークが紹介されている。アップルバウムの研究対象は伝統的社会ではなく、現代の資本主義社会だ。大手製薬会社が日本にSSRIを売り込もうとしていると聞くと、彼は格好のフィールドワークの対象だと考えた。


 アップルバウムのインタビューに、製薬会社の役員たちは驚くほど正直に本心を語った。それは彼らが、「自分たちが世界を救おうとしているとまっすぐに信じている」からだ。


 アップルバウムはいう。



 「製薬会社はほかのどの業界よりも、マーケティングキャンペーンが倫理的な方針と直結しています。結果、病気を『儲けるチャンス』とみる利潤追求の考え方と、不安定な状態にある人類の健康を救おうという倫理観が結びつくことになります。これにより、相当に強引なマーケティングをしている者でさえ、自分は社会に奉仕しているのだ、と信じきってしまうのです」



 製薬会社は、「根拠のない科学」とされたものを「先進国の医学」に変えることによって、錬金術のように富を生み出す。彼らが信奉しているのは、社会進化論ともいうべき“欧米中心史観”だ。



 〈製薬会社の役員たちとの会話のなかで、アップルバウムは、彼らが一様に、進化の方向はあらかじめ決まっていて、各文化がその諸々の段階にいるかのような発言をするのを耳にした。異なる文化は既定のレールに沿って進む途上にあるのだ、と。


 アメリカの医薬品市場は、商品の認知度や(専門家および非専門家による)処方率の高さや自由価格競争において進歩的であり、日本は15年遅れている、とみな等しく口にした。中国は日本よりさらに5年遅れているのだという。


 利益のあがるアメリカ市場は、ほかのすべての市場を計る物差しになっていた。アメリカの文化は最も「進化」しており、我々の仕事は「この進化を加速させる」こと、つまり、他国にも自分たちと同じような道を歩ませることであると、ある役員はアップルバウムに語った。(『クレイジー・ライク・アメリカ』)〉


 アメリカでSSRIが大成功したあと、それはカナダやオーストラリア、イギリス、フランス、スウェーデンへと広がっていった。製薬会社は製品化の課程で作成したマニュアルを各国に配布するとともに、「進歩的」な国で使った広告手法も輸出したからだ。日本にSSRIの巨大マーケットが誕生するのは時間の問題だったのだ。


 こうして日本人も、アメリカ人と同じようにこころを病まなければならなくなった。


SSRIはうつ病治療の画期的な新薬なのか


 SSRIは、うつ病を治療する画期的な新薬だとされた。それが事実なら、マーケティングの方法はどうあれ、社会的・医学的な意味はあるだろう。


 うつ病はセロトニンと呼ばれる脳内の神経伝達物質の不足によるもので、SSRIはセロトニン濃度のバランスの維持を助けるのだと製薬会社はいう。脳内の環境を物理的に変えるのではなくバランスを調整するだけだという説明は、患者の警戒感をゆるめ、SSRIを普及させるのに必須のものだった。


 うつ病がセロトニン不足によるものだという学説は、自殺者の脳やうつ病患者の髄液中にセロトニンレベルの低下が見られた、という1950年代の発見に依拠している。ところがその後、より感度の高い装置と測定法を使った追試では逆の結果が示され、1970年頃には発見者自身がセロトニンの減少とうつ病に関連性はないと認めてしまった。いまではアメリカ精神医学協会が出版した『臨床精神医学』にも、セロトニン仮説は裏づけられていないと記されている。


 SSRIが脳内の自然なバランスを回復させるというのも根拠のない理論だ。実際には、SSRIは脳内の化学物質のバランスをむしろ広く変化させてしまう。


 それではなぜ、このようなデタラメな(追試によって否定された)理論がいまだにまかり通っているのか。それはSSRIがあまりに巨大な市場を開拓したために、大手製薬会社が科学的知識を創作し、コントロールしているからだ。


 この問題を追及しているイギリス、カーディフ大学精神医学部のデイヴィッド・ヒーリーによると、製薬会社は1970年代から臨床試験に手当たり次第に資金を提供してコントロールを及ぼすようになり、90年代半ばには超一流誌の研究の半分以上が、大学の研究者が代表らしく見せかけながら、実は製薬会社が雇った医学系論文の代筆会社の手によるものだ(デイヴィッド・ヒーリー『抗うつ薬の功罪―SSRI論争と訴訟』みすず書房)。


 製薬会社の圧力によって、専門誌に掲載されるのもSSRIの効果に肯定的なものだけだ。ところが米国食品医薬品局(FDA)に登録された臨床試験74本のうち、否定的な結果が出た試験は36本もある。さらにこれらの研究の元データを再検討したところ、SSRIを摂取した10人の被験者のうち5人にうつ病の評価尺度で改善が見られたものの、プラセボ(偽薬)を飲んだ被験者でも10人中4人が改善していた。SSRIの効果は、巷間いわれているほど目覚しいものではないのだ。


 製薬会社は、「うつ病は自殺の原因になる」として専門医への受診や抗うつ剤の服用をすすめてきた。だがデイヴィッド・ヒーリーは、SSRIの臨床試験において、20人の被験者のうち1人が服用によって非常に興奮し、状況次第で自殺に至ると警告している。


 その後のより詳細な研究では、SSRIによる興奮や攻撃性は治療初期に見られるものの、初期段階を超えれば緩和するか消える傾向があるとされる。コロンビア大学の医学部グループの研究では、SSRIは成人男性の自殺行動に予防的な効果を発揮するものの、10代の子どもでは薬を飲んだ患者が飲まなかった患者より、投薬後4カ月以内に自殺を図る傾向が著しく高いことがわかった。


 このようにSSRIは「奇跡の薬」でもなんでもなく、その効果は贔屓目に見ても、従来の三環系抗うつ剤と同じようなものだ。ただSSRIには、ひとつだけ大きな魅力がある。既存の抗うつ剤に比べて薬価がとんでもなく高いのだ。


 近代医学が人類の幸福や社会の厚生に大きな貢献をしたことは間違いない。しかしいまやクスリのマーケットはあまりにも巨大になりすぎて、製薬会社も研究者もコントロールすることが難しくなっている。


 日本における昨今の論文捏造問題は、こうした現状の氷山の一角ということなのだろう。



  <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

  作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(以上ダイヤモンド社)などがある。

 最新刊『タックスヘイヴン TAX HAVEN』(幻冬舎)が発売。

 ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。


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