2015/03/09

『こころのケア』と『報道』と

『私の履歴書』の第26回は、「アルジェリア人質事件」に触れていた。


やっぱり読みすすめていくうちに、目頭が熱くなってしまう。


※    ※    ※



第26回『私の履歴書』人命救出の願い届かず 犠牲者の遺志 全社員で継ぐ から引用


様々な方が犠牲になった。高い技術力を持ったベテラン、海外現場を知り抜いたスペシャリスト。フットワークのいい若者、そして私と幾度となくアルジェリアの様々な現場に立った同僚。日本人以外の犠牲者も同じように多彩な人たちだっただろう。多様な人たちがひとつのチームになり。大きなプロジェクトの完成に向け、働いてきたのだ。


それぞれの人生を中途で絶たれた無念、遺された方の失意を思うと今も言葉が出ない。


事件直後から横浜のみなとみらいの本社には弔問や献花のため、たくさんの方が足を運んでくださった。山のように積まれた白い花の中には、「遠い異国の地で資源国のために働いて皆さんを誇りに思います。安らかにお眠りください」と書き添えたものもあった。


弔問に訪れた方々の気持ちは、犠牲者を慰めただけではなく、日揮の社員にもう一度勇気を与えてくれたように思う。事件直後、私は社員が海外の現場に赴くことに不安を感じるのではないかと懸念していた。だが、まったく違った。皆さんの励ましで、社員は海外プロジェクトに以前にも増して意欲を燃やすようになった。

(中略)

この事件では日本政府に全面的な支援を頂いた。外務政務官を現地に迅速に派遣し、アルジェリア政府との交渉に当たっていただいたことや、犠牲者や生存者の帰国の際し政府専用機を手配していただいたことなど、本当にありがたかった。



※    ※    ※



『こころの専門家』による『こころケア』は、いったいいつから「良いもの」「なくてはならないもの」とされるようになったのだろう。


私も書かれている通りのことを思ってきた。私と家族のこころが癒やされたのは、見知らぬ方々のあたたかな励ましの言葉。そして政府専用機を出していただいたことなどだった。


途上国での資源開発とは、一国の未来を背負うようなプロジェクトだ。それゆえ機密も多く、ベールに包まれた部分も多い。娘の私も仕事の内容を詳しく教えてもらったことがなかった。


それらを考えると、『報道』の力は大きかったように思う。私が父や父の仕事に不信を抱いて生きてきたのは、正しい情報を教えてもらっていなかったからだとわかったからだ。


自己紹介に書いたように、私はどちらかというと、『報道』というものを信じていなかった。その私が、感謝するようになったのだ。


特に事件から一ヶ月後に放送された、NHKの特集には励まされた。見知らぬ方々が、亡くなった方達を思い、ネットに綴った言葉を紹介したからだ。


アルジェリア人質事件が問いかけるもの 2013年2月15日 NHK おはよう日本

2015-3-8-2.jpg


事件から1か月となります。これまでにおよそ1万人が献花や記帳に訪れています。事件は私たちの心に何を投げかけているのでしょうか。


『日本トラウマティック・ストレス学会』という学会がある。大規模な災害や事故、事件などが起きる度に、惨事ストレスへの対応について提言してきた専門家集団だ。『アルジェリア人質事件』でも、報道機関に対し、緊急の声明を出した。


私はこの声明を目にしてとまどってしまった。家に閉じこもりがちだった私に希望を与えてくれたのが、『報道』だったからだ。


【人為災害】アルジェリア人質事件に関する緊急のコメント 日本トラウマティック・ストレス学会

2015-3-8-1.jpg



実名報道には確かに行き過ぎたものもあり、批判があって当たり前だと思う。


しかしご遺族も様々な思いを抱えておられる。必ずしも会社の対応に満足されている方ばかりではない、ということを報道ではじめて知った。テレビなどで実名で訴える、ということはそれなりに覚悟をしてのことだろう。多くの方に知って欲しいと願ってのことだ。


このような声明が出されることで、報道が萎縮してしまっても困ると思う。多様な意見を社会に出す、ということもまた、報道の役割の一つだと思うからだ。


少数の意見がかき消されない世の中であって欲しいと願う。


逆に私は、『こころの専門家』の方々に知って欲しいことがある。『こころのケア』で救われた人ばかりではない、ということだ。

コメント

非公開コメント