2015/07/27

医療ジャーナリスト 伊藤隼也さんについて その6 本当の誠実さとは何なのか

伊藤さんのツイッターなどの発言が「医学的に正しくない」と批判されれば、確かに多少の間違いや行き違いがあるのかもしれない。けれど、今、私が取りあげたいのはもっと大きなことだ。





「違うことには違う、おかしいことにはおかしい」と声をあげることは大切だと思う。特に医療では人の命がかかっているから余計そう思う。けれど実際にはそういうことが言える人なんてほとんどいない。だから誤解されてしまう気がするのだ。


●週刊誌が悪なのか


父は入社以来一環してIRの仕事をしてきた。株主総会で株主の方々へ今期の業績についてお話するのも仕事の一つだ。だから私にいつも言っていた。「素早く情報公開をすることが大切だ」。





今、東芝の不正会計が問題になっている。


<東芝粉飾決算>歴代社長が「刑事責任」を問われる可能性はあるのか?
弁護士ドットコム 7月23日(木)12時3分配信ーYahoo!ニュース



不適切な会計処理の問題で、第三者委員会から「トップを含めた組織的関与があった」と報告を受けた東芝。第三者委員会の調査報告書では、歴代社長が「チャレンジ」と呼ばれる業績の目標値を設定し、担当部門に達成を強く迫ったことが会計操作につながったと指摘されている。


東芝が7月21日に開いた記者会見で、同日付で社長を辞任することを発表した田中久雄氏は、「目標値にはきちんとした理由があり、各部門には実現可能なレベルで要請していた」と釈明。不適切会計について「直接的な指示をしたという認識はない」と述べているが、その責任が今後問われることになりそうだ。


過去には、粉飾決算を繰り返したカネボウや、損失を10年以上にわたり隠したオリンパスなど、悪質性が高いとして旧経営陣らが逮捕され、刑事責任を問われたケースもある。



調べてみると東芝の粉飾が問題になる前から、ネットには監査を行っていた新日本有限責任監査法人の姿勢を批判する声が出ていた。日付は2010年10月18日。「神は細部に宿る」という言葉を思い出す。


東芝:監査法人の責任追及 不適切会計で第三者委 毎日新聞 2015年07月15日

 
東芝の不適切な会計処理を巡る問題で、同社が5月に設置した第三者委員会が、監査法人の責任を追及していることが分かった。この問題では、東芝の2014年3月期までの営業利益のかさ上げ額が2000億円規模に膨らむ可能性が出ている。監査法人が複数年にわたりこれらの巨額な不適切会計を指摘してこなかった責任が問われており、第三者委は近くまとめる調査報告書に盛り込むことを検討している。


会計士増の旗振り役が採用減
新日本監査法人のお粗末経営 ダイアモンドオンライン 2010年10月18日


監査法人の最大手、新日本有限責任監査法人が危機に瀕している。業界が一丸となって会計士を現在の約2万人から2018年に約5万人にまで増やすことを目指すなか、今年の採用を大幅に減らす見込みなのだ。背景には、過去の過剰採用や監査企業の契約打ち切りといったお粗末な組織運営がある。その実態を追った。



私はこうした企業の不正に関する報道を目にするたび、「週刊誌」は必ずしも「悪」ではないと思う。彼らにしか批判できない、ということのほうがよほど怖いからだ。こんなに大きな金額に膨らむ前に誰にもとめられなかった、その事実に目を向けるべきだと思う。


●製薬業界が始めた「情報開示」 これは果たして情報開示だろうか


特にサピオの連載で製薬企業の情報公開の歯切れの悪さを目にした時、伊藤さんを責めるのは筋違いだと感じた。いくら情報開示してもらえても、こんなに手間と時間がかかるのだ。これは何人もの記者さんに協力してもらえる伊藤さんのようなジャーナリストじゃないとできないと思ったからだ。


「うつを治したければ医者を疑え」第13 章 製薬業界が始めた「情報開示」で患者を苦しめる不正はなくなる


これは果たして情報開示だろうか



国際情報誌『SAPIO』編集部の協力で、14年9月初旬から中旬にかけて製薬協加盟の未開示企業に対し、13年度に医師らに支払った「原稿執筆料等」の情報開示を請求したが、全社から「正式な開示前なので、個別の開示には応じられない」との理由で公開を断られた。


すでに開示している企業でも多くは、閲覧者の氏名などとともに登録・申請し、承認を受ける「二段階方式」を採用している。


同編集部で開示情報の閲覧を試みたが、大半の企業で開示情報の印刷やダウンロードができず、パソコンの画面上で1ページずつめくっていくしかなかった。会社によっては800ページを超えるものもあった。多数の人員を導入して情報を閲覧したが、目を通すのに昼夜を徹し、かなりの時間を要するものだった。資料として活用することを拒み、ただ「見せるだけ」という消極さがうかがえる仕様だ。印象として、この方法は「開示・公開」とは言い難い。


煩雑な情報開示方法を採る製薬企業の多くは、「個人情報の保護のため」と釈明する。しかし製薬協はこう認める。


「情報公開に関しては医師の同意を得た上でやっています。公開情報の扱いの指針については各社に委ねています」(同理事)


同意を得て開示した情報であり公共の利益の観点からも隠す理由はない。やましいところがないなら各社は手順を簡略化してもよいものではないだろうか。


またガイドラインの別項目、「その他の費用」に入る香典や会食などいわゆる接待交際費(接遇費)は、現段階では個別の支払い額ではなく、年間総額しか開示されない。


「個別で金額表示することも検討されています。しかしたとえば製薬会社社員と医師とが会食をして、その支払いを製薬会社がした場合、いくらが接待費か判断が難しく現在は総額公開しています」(同理事)




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『SAPIO』2014年11月号 「製薬会社から謝礼をもらった医師のリスト」


私が伊藤さんを好きになれなかったのは、週刊誌やテレビで活躍しておられたからだ。しかしそれは伊藤さんのせいではなく、私の中に思い込みや偏見があったからだ。


これはこのブログで何度も紹介した、NHKで2007年(平成19年)に放送された『ハゲタカ』というドラマのワンシーンだ。巨額の不良債権を抱えて瀕死の大手銀行が、ハゲタカと呼ばれる外資系ファンドに不良債権を査定されるところ。


実際には、銀行が所有するビルに、暴力団事務所がテナントとして入っていたりするため、不動産としての価値がほとんどなかったりする。つまり銀行幹部は「ハゲタカといったって、外国の会社だ。土地勘もないだろうし、時間もない。どうせ詳しく調べないだろう。今、この瞬間だけなんとか上手くごまかせば、安く買いたたかれることはない」とみくびっていたのだ。





ところがハゲタカは、銀行が抱える巨額の不良債権の正確な数字を導き出すため、コピー機を何台も持ち込んで、データをあっという間にコピーしてしまう。たちまち銀行の幹部が青ざめるのだ。





製薬企業がはじめたという情報開示が私には、この巨額の不良債権を抱える銀行がズラズラ机に並べたファイルに重なってみえてしまう。一体何が違うというのだろう。「日本は情報公開が遅れている」といわれていることは知っていたが、医療の分野は特に遅れていると痛感した。人の命がかかっているのにーーーーーーー


伊藤さんへの批判の一つに「医療不信を煽って儲けている」というものがある。しかし私にはお金のためだとは思えない。不信を煽るのではなく、議論を巻き起こすためだろう。恐らく、伊藤さんにはご遺族として苦労した経験があるから、ここまで熱心にやっておられるんじゃないかと思う。


昨年あるジャーナリストに週刊誌のギャラの金額を教えていただき、驚いたことがある。かなり安かったからだ。その方は私に正直に教えてくれた。「外資系製薬企業が相手だと迂闊なことをかくと訴訟になるかもしれない。批判記事を書くときには怖くなる」。


伊藤さんはあえてそのような厳しい条件の中に先頭をきって、突っ込むような記事を書いておられる。もともと写真家として有名な方ならなおのこと、もっと楽で稼げる仕事はあるだろうと思う。


だから私はこのサピオの特集を読んで以来伊藤さんへの悪口を目にすると‪Billy Joelの「Honesty ‬」を思い出す。「誠実さとは何なの?」と私達に問いかけている歌詞だからだ。

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