2015/08/03

『今も感染と差別は広がり続けている ——エイズ忘れられた病渦——』を引用させていただくにあたって

医療ジャーナリスト 伊藤隼也さんについて その8 少数の意見を取りあげ、人権に向き合うジャーナリスト の続き


もう20年以上前になる。私は新婚生活をカナダでおくっていた。慣れない海外での生活の中で、心のより所になっていたのは、現地に住む駐在員や日系人のために発行されていた新聞だった。日本語でかかれていた。


確かそこに掲載されていた小さな記事だったと思う。


●この世を去る前に、お経がききたい


宗派など詳しいことは覚えていないけれど、北米で布教活動をしておられる、ある日本人僧侶のお話が紹介されていた。私は記事にかかれていた内容に少なからずショックを受けた。


その僧侶はある時、若い日本人男性に会いに、遠くの街まで出かけたのだそうだ。若い日本人男性はある深刻な病におかされており、息を引き取る間際だったという。


「どうしてもこの世を去る前に、お経がききたい」という彼の願いを叶えるために、ボランティアの方が、日本人僧侶を探し出し声をかけたのだそうだ。


僧侶は日本から遠く離れた異国の地で、たった一人、息を引き取ろうとする彼の姿に胸が痛んだそうだ。本当は日本に帰りたいはずだろう。私ではなく家族に手を握って欲しいはずだーーーー


若い日本人男性がおかされていた病は「エイズ」だった。


●お金はいくらでも出す。頼むから海外に行ってくれ。二度と戻って来ないでくれ


その当時、カクテル療法が確立されておらず、エイズは「死の病」と怖れられていた。彼は日本でHIV 陽性者となった時に、家族に知らせたところ、こう言われ、日本を追われたのだそうだ。「お金はいくらでも出す。頼むから海外に行ってくれ。二度と戻って来ないでくれ」


日本にいる時に、同じような話を私は週刊誌などで目にしたことがあった。お金のある資産家の中には、子供がHIV 陽性者だとわかった途端、世間体を気にし、お金を渡して海外に行かせているそうだーーー


実際に北米にきて、そのような事実をつきつけられると重さが全く違う。


「今も感染と差別は広がり続けている ——エイズ忘れられた病渦——」を読んだ時に、あの北米で目にした小さな新聞記事の記憶が蘇ってきた。


20年以上もたって、不治の病ではなくなったはずなのに。まさか同じような差別や偏見が形を変え、今も日本で生き続けているとは思いもしなかった。


私は記事を読みながら泣いていた。あれから年月が流れ私も超低出生体重児の母となった。本当の苦しみは、命が助かった後にあるのかもしれない、今ならそう思えるからだ。


試しにネットを検索してみると、似たような話は今でも見つかる。


●日本で増え続ける理由は日本人がエイズに対して余りにも無知だから





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わたしは自由メソヂスト教団より宣教師として派遣され、タイのチェンマイにあるHIV感染者AIDS患者のためのシェルター「バーンサバイ」で働いています。バーンサバイは02年7月7日に開設しました。バーンサバイとはタイ語で居心地良い家という意味です。

(中略)

後になって分かったことでしたが、彼は日本で治療も受けており、障害者手帳も既に収得していました。しかし、家族には知らせていませんでした。


後から考えてみると、彼はタイで死ぬつもりで、日本から逃げて来ていたのだと思います。彼は死を覚悟してタイに来たのでしょうが、タイで仕事も与えられ、友人と共に暮らし、差別されることも無く何年かは楽しく過ごせました。


エイズという病気は精神的要素の大きな病気です。ストレスがなく穏やかに過ごせたなら、延命も可能です。現に、死ぬのなら一目娘に会いたいと、歩くこともできず、車椅子で日本から帰って来たタイ人女性の患者さんは娘に会い、家族に会い、日本のように周りから差別されることも無く、わたしエイズなのよと言いながら、抗HIV薬を飲んでとても元気になりました。そして恋もしています。


その後聞いた話によるとタイには何人もの日本人エイズ患者さんが日本から逃げるように来ているそうです。既に亡くなった方も居られて、中には家族がエイズだと聞かされて、遺骨も取りに来ない人も居ると聞きました。それほどに日本ではエイズの患者が差別されているのです。殆どの人がエイズに対する知識が無いため、恐れを抱き患者を差別します。中には家族にも打ち明けられず、地下にもぐってしまっている人たちが居ます。


その後帰国する機会があり、色々見聞きして、いよいよ暗澹たる気持ちに襲われました。


現在日本では若い人たちの間で感染者がたいへん増えている、また中高年者では夫妻がともに発病する人たちが増えているのだと聞きました。いわゆる先進国といわれている国ではHIV感染者の数は横ばいか下降しています。


日本だけが例外です。HIV感染者の数が増えているのは貧しい国だけです。アジアでは中国、インド、ビルマ、カンボジアでHIV感染者が増え続けています。日本でHIV感染者が増えているのはもちろん経済的理由ではありません。日本で増え続けている理由は日本人がエイズに対して余りにも無知だからです。(以下略)



確かに先進国とよばれる国で、いまだにエイズ患者が増えているのは日本だけだといわれる。今年もこのような報道があったばかりだ。





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東京都は、昨年1年間に都内で確認されたエイズウイルス(HIV)感染者とエイズ患者の合計が前年比43人増の512人となり、統計を取り始めた1989年以降で3番目に多かったと発表した。


うち20歳代のHIV感染者は前年比45人増の148人で過去最多だった。


都は、都内の保健所や医療機関で確認されたHIV感染者やエイズ患者を集計しており、感染者は前年比56人増の415人、患者は同13人減の97人。性別では男性が96・9%を占め、推定される感染経路は、同性間の性的接触が72・9%、異性間の性的接触は17・8%だった。


年代別では、感染者は20、30歳代、患者は30、40歳代が多く、それぞれ全体の7割弱を占めていた。


都は、都内の保健所などで、匿名で受けられる無料の検査を実施している。都福祉保健局は「感染しても、適切な治療を早期に始めれば、発症を抑えられる。不安がある人は検査を受けてほしい」と呼びかけている。


問い合わせは、都HIV/エイズ電話相談(03・3292・9090)。平日午前9時~午後9時、土日祝日午後2時~同5時。



「どうして増えているのか、国は何をやっているんだ」と不満に思ってきたけれど、伊藤さんの取材した記事を読み私自身の無知・無理解・無関心を腹立たしく思った。


私のような人がいるから、減らないのだとわかったからだ。


快く全文引用させていただいた医療ジャーナリストの伊藤隼也さんと、伊藤さんの記事を掲載した『SAPIO』編集部の皆様のお礼を申し上げます。日本から、HIV陽性者の方々やエイズ患者の方々への差別や偏見がなくなる日がくることを、願ってやみません。


『 今も感染と差別は広がり続けている ——エイズ忘れられた病渦——』私を職場から追った言葉 その1 へ


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