2015/08/05

『 今も感染と差別は広がり続けている ——エイズ忘れられた病渦——』 親に言えない! 仕事がない!家庭と職場を覆う差別と偏見 その1

(※ これは国際情報誌「SAPIO」2013年7月号に連載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただいて引用させていただきました)


「SAPIO」2013年6月号 連載第1回 私を職場から追った言葉 その2 の続き


[ 短期集中連載 ] 今も感染と差別は広がり続けている ——エイズ忘れられた病渦—— 伊藤隼也と本誌取材班 SAPIO 2013年7月号 (06月10日発売)


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第2回 親に言えない! 仕事がない!家庭と職場を覆う差別と偏見


エイズへの偏見はなくなるどころか拡大している。他ならぬ医療現場で差別が根強く残る実態を前号で報告した。HIV感染者は医療現場ではなく、日常生活のいたるところで苦悩している。そして人間関係が濃密になればなるほど、その苦悩は増す。具体的には家庭、職場が彼らを悩ませることになる。「HIVに感染したとわかった時」、誰に伝え、誰にかくさねばならないのか。


*  *  *



都内在住の50代男性Aさんは広告代理店に勤務していた97年、結核の入院をきっかけにHIV感染が判明した。大きな衝撃を受けたA さんは告知後、同性のパートナーと妹に電話した。


「パートナーはすぐに受け入れてくれました。家族は、早くに両親をなくしていたので、妹だけでした。HIVの治療ができるようになったという情報は知っていましたが、自分を告知を受けてみると、“死が近いかもしれない”と思い、妹に連絡して事実を告げました。しかし、彼女はエイズに関する情報を調べ、教えてくれました。いちばん辛い時期に身内が冷静な対応をしてくれて、本当に助かりました」(Aさん)


その後、Aさん精神的に立ち直って治療に臨んだ。現在は病状も安定し、エイズに関する啓発活動を行っている。


だが、誰もがA さんのように理解のある身内に恵まれているわけではない。A さんがHIV陽性と判明した頃はまだ抗HIV薬を多剤併用するカクテル療法が開発されたばかりだったが、現在では広く普及し、「死なない病気」となった。にもかかわらず、他の死に至る病気よりも忌避される。ちなみに、通常の季節性インフルエンザでは年間1万人も死亡している(超過死亡概念)。扱いの差には驚くばかりだ。


A さんは3年前、HIVをテーマとするSNS のコミュニティに目を留めた。《僕はエイズ患者です。僕のようになって欲しくないので、皆さん検査を受けて下さい》


◇  ◇  ◇



HIV陽性反応確定でした。僕の命は? ー Yahoo! 知恵袋


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(※ 参考のために私が掲載させていただきました)


◇  ◇  ◇



かつての自分を思い出したAさんは自らの体験談を伝え、「今を乗り越えれば必ず未来はあるよ」とのメッセージを送ったが、返ってくるのは治療拒否を匂わすネガティブなコメントばかりだった。


何とか役に立ちたいと願うA さんはSNSでのやりとりを続けた。その過程で、この男性が家族に感染を伝えた時、「お前はもう家族ではない」という趣旨の言葉を浴びせられていたことを知った。


「家族のその発言に告知以上のショックを受けたようで、僕とのやりとりで彼は『自分に死ぬ自由はないのか』と自暴自棄になっていました。


その直後、彼はSNSを大会してしまい連絡が途絶えました。あのまま治療拒否を続けていたら・・・・もしかするともう亡くなっているかもしれない。僕はたまたま家族に恵まれていたので精神的に助かりましたが、彼のように身内に拒否されると救いがなくなってしまいます」(A さん)


●友人には言えても親には言えない


HIV陽性者にとって家族へのカミングアウトは最初の大きな壁である。HIV陽性者の支援を行うNPO「ぷれいす東京」の生島嗣代表はこう指摘する。


「HIV陽性者は、自らが感染していることを友人には伝えられても、親には伝えられないことが多い。友達に拒否されても代わりがいますが、親に拒絶されると立ち直れないことが多いので、非常に慎重になるんです。逆に身内のサポートがある方が、治療に前向きになれます」


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厚生労働省の研究班が07年に行った調査では、「HIV陽性者について誰に伝えたか」という質問への回答は「友人」が68.4%だったのに対し「母親」26.5%、「父親」16.8%、「兄弟姉妹」22.6%という低さだった。


もちろん、友人に伝えたと回答したHIV陽性者もあらゆる友人に伝えているわけではなく、その範囲は一部に限定されているだろう。


厚生労働省研究班がHIV陽性者に行った「生活の質に関する調査研究」(03年調査)では、「周りの人にHIV感染を知られないよう、いつも警戒心を働かせている」が65.3%。「職場学校近所では、親密に付き合うことを避けている」が34.7%だった。


抗HIV薬の開発で、エイズは「死なない病気」になった。しかし、HIV陽性者は周囲からの拒絶や差別を恐れ、感染を知られないよう息をひそめて生きている。


職場でも同様だ。生島氏らがこれまでにヒアリングした事例からは、HIV陽性者の苦悩が伝わってくる。


続く

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