2015/08/06

『 今も感染と差別は広がり続けている ——エイズ忘れられた病渦——』 親に言えない! 仕事がない!家庭と職場を覆う差別と偏見 その2

『 今も感染と差別は広がり続けている ——エイズ忘れられた病渦——』 親に言えない! 仕事がない!家庭と職場を覆う差別と偏見 その1 の続き


職場でも同様だ。生島氏らがこれまでにヒアリングした事例からは、HIV陽性者の苦悩が伝わってくる。


「医療・医薬品関係の会社に勤める30代男性は業務上、中国への出張が多かったのですが、毎回、大量の抗HIV を携えて出国しるため、中国での入国チェックで没収されないかと心配していました。


また、会社側から中国への長期駐在を打診されたことがあったのですが、当時、中国に6ヵ月以上滞在するにはHIV陰性の証明書が必要だったため、長期滞在を拒んだそうです。先々どうなるかわからない不安を抱えていました」(生島氏)


ちなみに中国政府は2010年4月にHIV 陽性者への入国制限を解除したとされるが、現在でも地方によっては古い書類を使っており、感染の有無を問われる場合がある。


また、公共交通機関で運転手を務める場合には、安全上の理由から職場に服用の有無を報告する義務があり、HIV 陽性者であることが知られてしまう。


「ある交通機関に勤務する30代男性は、届け出を怠れば報告義務違反になってしまうし、かといって素直に伝えると病気が職場に知られるのではないかと悩んでいました」(生島氏)


主治医からは抗HIV 薬は業務に支障をきたさないから報告する必要はない、と言われたが、最終的には所属長に直接打ち明けたという。職場でのプライバシーの確保は多くのHIV 陽性者が悩む問題だ。


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Futures Japan HIV陽性者のための総合情報サイト


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厚生労働省の「HIV陽性者の生活と社会参加に関する調査」08 ~09年調査)によると、HIV 陽性者には20代〜50代男性が多く、約7割が働いている。就労者の90%が週5日、76%が週35時間以上勤務する。一見、健常者と変わらないが、職場におけるHIV陽性者の内心は穏やかではない。


上司や同僚など勤務先の誰かに病名を開示しているのは陽性者のわずか23.2%にとどまる。カミングアウトできない姿が窺える一方、8割近くが現在の職場に対し、「勝手に病名を知られる不安」を感じ、5 割以上が「HIVに対する同僚や雇用者の無理解や偏見」を感じている。


また、陽性者自身が働きにくさを感じ、仕事を続けられないケースは実に多い。


09年調査によると、HIV陽性者のうち4 割が病気発覚後に離職や転職をしている。生島氏は、「労働条件や仕事内容」「体力的な問題」「精神的な問題」が主な理由と言う。「HIV陽性者が離職する業種は食品関係が最も多く、次いで医療、福祉関係です。身体的な接触が伴う業種だと、陽性者の多くが、“仕事を辞めるべきでは”と思っています。


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一方で東京では平日の夜間や土日に診察できる専門医療機関がありますが、地方では、治療のため平日午前中に定期的に通院する必要があります。HIV陽性を隠したまま、職場に毎月のように午前中休みを申請するのは難しく、仕事と治療も難しいため、仕方なく職を辞する人が多いのです」


HIV陽性者は、常勤の従業員のうち一定の障害者の雇用を義務づける「障害者雇用促進法」の対象となっている。「障害者雇用枠で年間180人ほどのHIV陽性者が就職しています。職場に病気を隠したくない、ある程度賃金が下がっても病気をオープンにして勤務したいという人もいるんです」(生島氏)しかし、実際の採用は企業の裁量に委ねられている。


あるHIV陽性者は障害者雇用枠を利用した転職を希望し、障害者帳のコピーを添えて200社近くの求人に応募したが、面接できたのは10社に1 社の割合だった。やっと辿り着いた面接でも「どうして感染したの?」など配慮を欠く質問をされた。


他にも障害者雇用枠で面接に臨んでも、「前例がない」「他の社員がどう思うかが懸案」と拒絶されたケースもある。


一方で、偏見に囚われず、HIV陽性者にも門戸を開放する企業も出てきた。


生島氏がコーディネートを手伝っている東京都主催の「職場とHIV/ エイズ」に関するシンポジウムでは、実際にHIV陽性者を雇用している企業が参加している。


「最初は企業側も匿名でした。やはり世間にはまだまだオープンには言えない空気があります。それが一昨年は会場内に限り実名で登場してもらいました。そして昨年は宣伝段階から社名を出したんです。徐々に変わりつつあります」(生島氏)


実名で参加していた日本IBMでは、複数のHIV陽性者がエンジニアや営業といった専門職で活躍している。上長や同僚にHIV陽性者であることを伝えている社員もいれば、周囲に伝えていない社員もある。基本的に自由で、会社側が介入しない。


「弊社はノーマライゼーションを推進しており、現在約200名障害者が働いています。HIVの方も複数いらっしゃいます。ダイバーシティー(多様性)に積極的であることを内外にオープンにすることで、様々な人材を元気づけられると思っています」(日本IBM)


残念ながらこのような先進的な取り組みはまだ一部の企業に限られている。


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職場とHIV/エイズ ハンドブック 人事・労務・障害者雇用担当の皆様へ 東京都福祉保健局



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●HIV 地方出張で透析施設が見つからない


エイズが「死なない病気」となり、長期療養のHIV陽性者が増えるなか、今後問題となるのが、前号でも取りあげた人工透析の問題だ。長期間薬物療法を続けると副作用で腎障害を患う場合があり、透析が必要となる。


透析は週に何日も通わなくてはならないため、職場の理解が欠かせない。加えて、できる限り自宅、職場から通いやすいクリニックの確保が必要となる。ところが、なかなかHIV陽性者を受け入れてくれるクリニックがない。米国疾病管理予防センターによれば、針刺し事故での感染リスクはC型肝炎の10分の1、B型肝炎の100分の1にもかかわらずだ。


前出のA さんは人工透析を受けており、受け入れ可能な透析病院を見つけるのに、苦慮した1人だ。幼少時に小児腎炎、成人してから糖尿病を患ったA さんは抗HIV薬を長期間服用した影響もあり、腎臓の数値が極端に悪化した。


「体の調子も悪くなるし、自分がどうすべきかわからなくなりました。たまたまHIV診療の拠点病院の医療相談室で出会ったソーシャルワーカーが受け入れ先を必死に探してくれましたが、居住している地域で受け入れ可能だった施設はたった2つでした」(Aさん)


現在も週3回、各4時間の透析を続けるA さんだが、不安は解消されていない。「地方出張する時は現地で受け入れ施設を探してもなかなか見つかりません。大都市でもHIV陽性者の透析患者を受け入れてくれる病院は数えるほどしかありません」(Aさん)


医療従事者への支援体制にも不備が見られる。万が一、透析クリニックなどで針刺し事故といった医療従事者が発生した場合、HIV感染予防のため、拠点病院にのみ備蓄されている高価な抗HIV薬を速やかに服用する必要がある。


東京都はその際のマニュアルを作成・配布しているが、都内のある透析クリニックの院長は、「効果的に用いられていない」と証言する。


「HIVに関する知識が少なく心情的なためらいがあり、事故時の対応にも不安があるので、当院では陽性者を受け入れていません。行政からHIV感染防止の緊急対応マニュアルが配布されましたが、埋もれています。行政からHIV陽性者の受け入れ要請も特にありません」すべてのクリニックが受け入れる必要はないが、行政主導で、HIV陽性者が負担なく利用できる透析施設の地域ネットワークを構築する時期ではないか。


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