2015/09/28

『新型出生前診断』の問題点について その3 『NIPTを臨床研究として行う背景』を検証する

●社会に混乱をもたらしているものは何か


NIPTコンソーシアムの公式Webサイトには、『NIPTを臨床研究として行う背景』について、このように記載されている。


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・ 日本では周産期の遺伝カウンセリング体制の整備が遅れている。

・ 現状で、検査が行われると、社会的な混乱の原因になる可能性がある。


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先日のフジテレビ「みんなのニュース」の特集を思い出すと、何ともいいようがない。今、私達の社会に混乱をもたらしているのは、違う理由のように思えるからだ。


私は最期の伊藤隼也さんと伊藤利尋キャスターのお話が気になった。前回書いたように、この『新型出生前診断』が「臨床研究」として行われていることなど全く知らなかったからだ。


それでは導入当時の議論を振り返ってみる。


こちらに当時の新聞記事がある。確かに伊藤隼也さんのおっしゃるように議論が尽くされたとはいえないようだ。記事をもとに、臨床研究での導入に理解を求める『NIPTコンソーシアム』研究代表の左合治彦氏の意見と、それに反対する立場の方々の意見をまとめてみる。


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学会年内に指針策定

妊婦の採血だけでダウン症などの染色体異常が高い精度でわかる新型の出生前診断が波紋を広げている。日本産科婦人科学会(日産婦)が13日に開いた公開シンポジウムでは、新型出生前診断の導入を巡って産科医や当事者団体が議論を交わした。日産婦は、これらの意見をもとに12月をめどに指針を策定する考えだが、会場からは「議論が十分尽くされず、見切り発車だ」との声も上がった。


シンポジウムでは、新型出生前診断の実施を計画している左合治彦・国立成育医療研究センター周産期センター長が「安易に検査が行われると混乱を生む」として、臨床研究での導入に改めて理解を求めた。


日本ダウン症協会の玉井邦夫理事長

出生前診断を受ければ『安心して産める』と言われるが、ダウン症は染色体異常の一部に過ぎない。どんな子にも生きていく上でのリスクはある。(ダウン症だけ排除することが)なぜ安心につながるのか。


斎藤有紀子・北里大准教授

(新型出生前診断は)胎児のふるい分けにつながる懸念がある。診断を社会としてどう使っていくか、学会は理念や向かうべき方向を示すべきだ。


会場から発言した二分脊椎症患者の鈴木信行さん(43)

学会の議論では限界がある。医学だけでなく法律や教育など幅広い視野が必要で、国が責任を持って主導的に取り組むべきだ。


聴衆として参加した遺伝性の筋疾患のある山本奈緒子さん(42)

障害は不幸の原因ではないことを知ってもらう場がほしい



記事のまとめ

一般の妊婦にとってダウン症の人たちが「当たり前に元気に生きていく」(玉井理事長)姿が十分知られているとは言い難い。欧米では自立して暮らすダウン症の人たちも増えている。今回のシンポジウムでは遺伝カウンセリングのあり方などに重点が置かれたが、本来は障害者が生きやすい社会を目指す議論に時間をかけるべきだろう。


今回の新型出生前診断以外にも、様々な疾患の研究が進み、診断の対象がさらに広がるのは必至だ。国が主導して今後も議論を続けていく必要がある。


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議論をつくされていない状況で、この検査の導入がすすめられた理由は「安易に検査が行われると混乱を生む」ということだった。この記事にも「いつ検査がはじまるのか、問い合わせが殺到している」とある。こちらは左合氏のインタビュー。



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左合治彦さん(国立成育医療研究センター周産期センター長)「批判をきっかけに、NIPTをみんなで考えていきたい」 掲載:No.4647 2013年5月18日発行 日本医事新報社


今年4月から臨床研究が始まり、国民の関心が高まっている母体血を用いた新しい出生前診断(無侵襲的出生前遺伝学的検査=NIPT)。遺伝カウンセリング体制の整備などの要件を満たし、認定・登録された全国15施設で現在は実施されている。実施施設の1つである国立成育医療研究センター周産期センター長の左合さんは、不安な気持ちで同センターを訪れる妊婦と日々向き合っている。


93年から米国に5年間滞在し、当時最先端の遺伝医療を学んだ。NIPTのスポークスマンとして、メディアに登場することも多い左合さんは、NIPT推進派として見られることも多いが、決して検査を推進したいわけではないという。採血だけで安易にできてしまうNIPTには、各方面から「マススクリーニング検査として行われてしまう」との批判がある。しかし米国では、2011年に臨床検査としてのサービスが開始されており、日本への流入を防ぐことは事実上不可能な状態でもあった。


「ならばせめて、この検査があらぬ方向に進んでしまうことのないように正確な情報を国民に提示し、十分な遺伝カウンセリング体制の下で実施する必要があると思い臨床研究として開始したのです」

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確かに、日本国内には需要がある。安易な規制は新たな悲劇をうむ可能性があり、この時点での左合氏の主張はその通りなのかもしれない。


●2年半の間に変わったこと 変わらなかったこと


それでは2年半がたち、その間、何がかわったのだろうか。議論がつくされ、カウンセリング体制も充実したのだろうか。もう一度、「NIPTを臨床研究として行う背景」と9月15日に放送されたフジテレビの特集を振り返る。





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・現状で、検査が行われると、社会的な混乱の原因になる可能性がある。

☆検査について十分な認識を持たずに安易に検査を受ける可能性がある。

☆検査結果に対し妊婦が誤解する可能性のある。

☆検査を受けて予想外の結果に悩む妊婦が増加する。

☆急速な検査の広がりによって、自律的な判断がしにくくなる。

☆日本における現状を踏まえ、適切な遺伝カウンセリングや妊婦の周産期管理・ケアが可能な施設において臨床研究として検査を実施し、検査の実態を明らかにする。




フジテレビみんなのニュース 「『新型出生前診断』わが子の障害・・・母の選択 」 その4

新型出生前診断を受けた41歳の女性

「40歳を過ぎていて高齢出産なので血液を抜くだけでお腹の赤ちゃんにもとくに危険がない状態で結果が分かるので、良い検査だなと思いました」


検査を希望した31歳の女性

「知っておきたいですね。個人的には一抹の不安がどうしても拭いきれなかったので」



採血だけで手軽にできる検査。平均20万円と高額にもかかわらず順番待ちの病院も多いといいます。導入から2年半。


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およそ2万人の妊婦がこの検査を受けました。そしてダウン症と判明した妊婦のおよそ9割(144人 88.5%)が産まない選択をしています。


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(Gene Tech株式会社 検査データ結果 平成27年3月まで実施分)


この現状に一部の医師から疑問の声があがりはじめています。


東京女子医大 仁志田博司名誉教授



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「この技術の導入のために、本当だったら恵まれて生まれるはずの命が消えちゃう可能性がある。そのことは倫理的に非常に重要な問題なんです」


国立病院機構長良医療センター 川鰭市郎産科医長



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「少なくとも一般の皆さんに十分理解されているところにはまだ到達していないのかな。魔法の検査ができたというふうな認識を持っている人がいるんじゃないのかと危惧しています」



(瀬戸病院埼玉県所沢市)新しい命と向き合うためにこの病院では遺伝専門医やカウンセラーによる詳しい説明で妊婦さんをフォローしています。



瀬戸病院 認定遺伝カウンセラー 江田肖さん



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「地方になると県内にいないとか。検査だけじゃなく遺伝カウンセリングとか、専門家のお話をきけるという状況はまだ全然整っていないですよね」



番組は新型出生前診断を導入した53 の施設にアンケートを送ったところ、回答のあった18施設に遺伝カウンセラーがいると答えたのは12件でした。


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続く

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