2015/10/20

『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」 ④

(※ これは2012年11月15日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


『新型出生前診断』の問題点について その14 週刊文春「あぶない高齢出産」 ③ の続き


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「お腹の子がダウン症だとわかって悩んでいる」お母さんに向けたメッセージ(日本語訳)





2月9日。未来のママ(ダウン症の子供を妊娠した女性)からメールが届いた。

「私は妊娠しています。その子がダウン症があることがわかりました。とても怖いです。どんな人生がこの子をまっているのでしょうか」

これから彼女にこの動画を通して返信しますーーーーーーーーー



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彼女が診断を受けたクリニックでは、ダウン症と診断された場合、やはり8割以上の妊婦が中絶を選んでいるという。だが、妊婦たちが正しい知識をもって判断したとは思えない。日本では、産婦人科医でさえもダウン症を正しく理解していない人がいるからである。


「ダウン症は数ある先天的な障害のなかでも軽度の障害、それが医療界の常識です。その障害も様々で、長生きできるケースも多い。ダウン症の子供やその親に対しての保護に関して、全く議論がされないまま、検査が導入されてしまうのは非常に危険です」(前出・篠塚氏)


そもそも、ダウン症の人が日本に何人いるのか、5万から6万人と言われるが、正確な数字すら分からないのが現状だ。前出の中込氏によれば、実際に妊婦にカウンセリングをすると、母親は驚くほどダウン症の知識を持っていないという。


「ダウン症が寝たきりだと思っている方もいるほどです。彼らは学校へも行けるし、家族と楽しく過ごせる。それらを妊婦に説明すると、検査をしない方がほとんどです。裏を返せば、多くの人がそういう認識ですから、今はダウン症の人々を育んでいける社会ではない。その状況で、『夫婦で相談してください』と自己決定を促すのは凄く不親切な対応だと思います。知る権利を押しつけている」



事実、ダウン症の人々は様々な分野で活躍している。岩本綾さんは、ダウン症として日本で初めて4 年生大学を卒業した。彼女は今年39歳になる。日本語、英語、フランス後の3カ国語を操り、絵本の翻訳に携わっているという。筆者の取材に、ゆっくりした口調でこう話してくれた。


「実は、私は自分をダウン症だと知ったのは、大学2年生の時でした。父から宣告を受けました。自分がダウン症だという事を、うすうす感じてはいましたけれど、実際言われるまでは知らなかった。ショックで、自分の部屋に戻って泣きました。でも、ダウン症があったから今の自分がいるんです」


今回の新型診断の問題については、こう言葉を絞り出す。


「個人としては反対です。偉そうには言えませんが、この検査に対しては、怒りと言うよりも悲しい。やっぱり受けないでほしいというのが実感です。私は生きている素晴らしさを今、実感しています。ダウン症は個性だという言い方をされますが、私は目に見えない障害だと思っています。乗り越えられそうだと思っているので、その壁が崩れて、優しくなれる社会であればいいな、というのが私の願いです」


DNAの解析は、まだまだ未知の分野である。今回の新型診断に限らず、もしもすべての染色体の情報を調査したところで、その人間がどんな疾患を抱えることにあるか、まったくわからない。だが、こういった遺伝子診断により、本来は治療に生かされるべき診断結果が、本末転倒ともいえる事態を引き起こすのである。


現にアメリカでは遺伝子診断で将来乳がんになる可能性がある女性が、がんを発症する前に乳房を切り取ってしまう、というケースが起きているのだ。


DNA診断が罷り通れば、遺伝子の優劣で人を判断してしまうことに繋がりかねない。そこに待ち構えているのは危険な優生思想である。新型診断を我々はどう捉えるべきなのか。そして、この背景にある高齢出産の増加という社会問題をどう解決すべきか。日本の医療、ひいては社会の大きな分岐点に立たされているのである。(以下次号)


『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編 ①

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