2015/10/23

『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編  ③

(※ これは2012年11月22日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編  ②の続き


不妊治療を行う25の施設からなる「日本生殖補助医療標準化機関(JISART)」の元理事長・高橋克彦氏が解説する。


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JISARTとは不妊治療を専門とするクリニックによって結成された団体です。子どもが欲しいと願うご夫婦に安心して、満足できる医療を受けていただくことを目的として活動しており、現在、全国27施設が加盟しています。



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「一番の原因は、生殖補助医療(体外受精などの不妊治療)の無益な繰り返しです。たとえば現在、体外受精を行っている人の4分の1は40歳以上ですが、一般論として、この年代の人は3回目までに着床・妊娠しなければ、統計的に4回目以降はほぼ無益な治療だと言えるのです。しかし、日本では不妊治療が標準化されていないため、希望すれば、何歳の人であっても、何度でも繰り返すことを不思議と思いません。だから、治療周期あたりの出生率が極めて低いのです。


JISARTの調査では、対外受精をした40歳以上の人のうち、採卵あたりの出生率は42歳までは7〜8%。ところが、43歳以上となると、たったの1%なのです。これは治療とは言えません。でも、『1%でも可能性がある』と捉える人もいるのです」


さらに、出生率低下に拍車をかけるのが施設の「質の低さ」である。


「生殖補助医療の全登録施設(約600)のうち、半数以上が年間の治療(採卵)実施回数が100回にも満たない施設なのです。この分野は医療技術や機器の進歩が著しい。対外受精や顕微授精などは、培養士やカウンセラーなど、経験豊富な専門家が揃ってはじめて成り立つのです。専門的な治療がきちんとできている施設は、おそらく100もないでしょう」(同前)


JISARTに参加する25施設ではガイドラインを作った上で、施設同士による相互の検査態勢を整えることで質の担保に努めるが、他の施設では経験も少なく、技術もアップデートされていないところが多数心材するのも現実だ。


ある医療関係者に言わせれば、「不妊治療は歯のインプラント治療や視力矯正のレーシックと同じで、医療機関によって、そのレベルはまったく違う」という。


この質の低さは、出産現場にも悪影響を与えている。前出の久保医師が嘆く。「多くの不妊治療の施設にとって妊娠成立が“ゴール”となってしまっています。結局、妊娠させるだけで、自分たちの役割が終わったと思っているのです。だから高齢出産のリスクの説明をせずに不妊治療を開始することが多い。ようやく妊娠できたと高齢の妊婦がいざ出産を目的に、我々のような周産期の病院に来たとき、初めて『こういうリスクがあります』という説明を受けることになる。そして、リスクを知らされた妊婦が言葉を失う場面に我々は何度も出くわすのです」


そもそも、現代医療に欠かせない患者の重大な権利は「十分な説明と納得して受ける治療」だと言われる。母親が自分の状況を客観的に把握することこそ必要なのである。前出の向田医師もこう話す。


「妊娠は危険であると判断せざるを得ない、と感じるほど高齢の女性もいます。彼女たちに対して、われわれ医師は『やめましょう』とは言えません。ただリスクを背負うことになるのは、親以上に、子供だということを認識しなくてはいけません」これまで挙げてきた諸問題は少しでも早い年齢で子供を産むことで軽減される。そして、不妊に悩む夫婦も、早くから治療を行うことで、妊娠・出産へと導ける可能性は十分ある。


一方で高齢出産そのものの権利も守られていくべきだ。久保医師はこう話す。


「高齢者の妊娠・出産は悪いことではありません。ただ、リスクが消えるわけではなく、それでも産みたいのか、という選択と覚悟が必要なのです。例えば40歳を越えていても、リスクを知った上で、自分たちの子供が大きくなるまでを考えて人生設計できているのであれば、当然妊娠すべきだと思いますし、その権利もある」



続く

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