2015/10/26

『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編  ④

(※ これは2012年11月22日に発売された「週刊文春」に掲載された特集記事です。著者の伊藤隼也さんに許可をいただき引用させていただきました)


『新型出生前診断』の問題点について その15 「あぶない高齢出産」後編  ③ の続き


ただ、最大の問題は今の日本に女性が若いうちから子供を産み、育てていく環境が十分に整っているとは言い難いことにある。


この問題を克服した好例がフランスである。


フランスはかつて第二次世界大戦後にベビーブームを迎えたが、70年代に入り出生率は低下。少子化に悩んだ。そこで1982年にとった政策が、妊婦検診料の無料化と、43歳未満の不妊治療費の無料化であった。人工授精(6回まで)や対外受精(4回まで)など、不妊にかかる費用のほぼ全てを社会保険でカバーしたのである。その効果は後年になって数字になって現れ、1人の女性が一生に産む子供の数を示す合計特殊出生率は、06年には2.00となり、欧州でトップになった。この施策は現在でもなお続いている。


●助成金制度が実態に即していない


一方、わが国の不妊治療に対する助成金だが、基本的に上限は1回当たりの治療に関して15万円、年間30万円まで。助成総額は5 年で150万円まで、となっている。


これは、「実態に即していない」と松本氏は指摘する。


「対外受精をする場合、大体50万円が必要です。例えば、若くして不妊に悩んでいるカップルの場合、助成金が15万円出たとしても、残りの35万円はなかなか出せる金額ではない。結局、治療に文樹絵ず、歳を重ねて言ってしまうケースが多いのです。5年で150万円ではなく、最初から150万円使えるようにすれば所得の低い若年層も治療に踏み切れる」


前出の高橋医師は、「5 年」という期間に対する疑問を投げかける。


「対外受精を5 年も続ける意味は、全くありません。対外受精が必要なカップルには1 年以内に3回はやってもらいたいのです。子供ができる人の8割は1 年以内(3回までに)できるのです。せっかくの助成金なのですから、医療現場に見合った制度に早急に改善してほしい問題です」


86年の男女雇用機会均等法施行以降、社会競争に晒された女性たちの間では、「妊娠で休むなんてとんでもない。今こそ働かなければ」という意識が高まり、「産む性」としての女性の社会的位置づけが置き去りにされたままなのである。


前出の久保医師が話す。


「日本では大企業で働く女性の多くが『最初の赤ちゃんは35から39歳までに欲しい』と言います。要するに、自分が仕事でポジションを得て、1年近く、産休や育児休暇で休んだとしても、職場で疎かにされず、復帰もしやすり立場を築く年齢です。これが高齢出産の増加の遠因ともなっているのです。はっきり言えば、この国は若い女性が働きながら子育てのできる環境にはないということを如実に示しているのです」


フランスのように社会保険システムを根底から変えるという判断を下すのは、脆弱な昨今の政権体制では難しかろう。だが、行政制度は変わらずとも、患者に直面している医療の現場では少しずつ変化が起き、光が見え始めている。


例えば、ほとんどの働く女性は、普段は仕事に掛かり切りで地域との関わりがない。近隣に相談相手もいないが、妊娠した途端に地域社会とゼロから向き合うことになる。この突然の孤絶状態に戸惑う妊婦も多い。


そこで、周産期医療を専門とする埼玉の瀬戸病院では、最寄りの駅前に分院を作り、マタニティヨガを開催する等といった、妊婦同士の輪を広げる活動を行っている。出産後、仕事復帰した女性たち向けに、保育園などに預けることができない病気の子供たちの面倒を見る「病児保育」も実施しており、利用者は年々増えているという。


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瀬戸病院 病児保育「もりもり保育室」のご案内

病児保育とは・・・
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また、最近では様々な企業で託児所が設けられるなど、女性が子供を産み、育てられる環境を作ることに目が向けられ始めている。


今こそ女性たちには、改めて妊娠・出産も含めた人生設計を見つめ直してほしい。改めて言うが、妊娠も出産もゴールではない。そこが子育てとこの国の未来を創る子供の人生のスタートなのだ。


(終わり)

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