2017/05/19

超低出生体重児の心の発達 村上春樹の『アンダーグラウンド』を読む 

●村上春樹の『アンダーグラウンド』と、こころのケア

息子と英語の教科書を読んでいたら、『Haruki Murakami』という名前が出てきた。

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アンダーグラウンド (講談社文庫) 文庫 – 1999/2/3
アンダ-グラウンドアンダ-グラウンド
(1997/03/13)
村上 春樹

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内容紹介

1995年3月20日の朝、東京の地下でほんとうに何が起こったのか。同年1月の阪神大震災につづいて日本中を震撼させたオウム真理教団による地下鉄サリン事件。この事件を境に日本人はどこへ行こうとしているのか、62人の関係者にインタビューを重ね、村上春樹が真相に迫るノンフィクション書き下ろし。

内容(「BOOK」データベースより)

1995年3月20日の朝、東京の地下でほんとうに何が起こったのか。同年1月の阪神大震災につづいて日本中を震撼させたオウム真理教団による地下鉄サリン事件。この事件を境に日本人はどこへ行こうとしているのか、62人の関係者にインタビューを重ね、村上春樹が真相に迫るノンフィクション書き下ろし。

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息子は村上春樹さんをもちろん知らない。


そこで村上さんは日本の有名な作家で、ノーベル文学賞候補の常連であることなどを教え、『アンダーグラウンド』を読んでみないかすすめた。


『アンダーグラウンド』は地下鉄サリン事件の被害者とご家族のインタビューを収めたノンフィクションだ。


このブログは、『こころのケア』への疑問からうまれた。地下鉄サリン事件から20年の節目に書いた「『アンダーグラウンド』と『こころのケア』」という記事へのアクセスはいまだに多い。


『アンダーグラウンド』と『こころのケア』 地下鉄サリン事件から20年 


●PTSD治療の権威が診察室の中で起こした暴力事件

日本で心のケアが重視されたきっかけは、「阪神淡路大震災」と「地下鉄サリン事件」だったと思う。村上さんは、『アンダーグラウンド』の最後で、精神科医の河合隼雄氏と対談していた。村上さんが届けてくれた被害者とご家族の証言は、PTSDや心のケアについて考えさせるのだろう。出版されて長い年月が経った今でも、『アンダーグラウンド』はAmazonの事件・犯罪関連書籍のベストセラー1位を獲得している。当事者の声は静かに世の中を変えていくんだと思っている。


でも、村上さんはその後、PTSD治療が上手くいったのかはご存知ないんだろう。PTSD治療の権威が、PTSD患者を殴って裁判になったりしているんだよ。重要性を伝えるなら、その後どうなったかも検証しないといけないと思う。


●仕事熱心で優秀な医師が、地下鉄サリンの実行犯に変貌した理由

PTSD治療についてはさておき、息子ははじめ、『八甲田山死の彷徨』と同じように「怖い」と『アンダーグラウンド』を手に取ろうとしなかった。


新しいことや物になかなか飛びつこうとしない、思った通りの反応だった。そこで数ある村上作品の中で、なぜ私が『アンダーグラウンド』をすすめるかを伝えることにした。



息子は幼い頃からニュースが好きだった。そんな息子の心に届くようにこのように言ってみた。


「日本でオリンピックもあるし、無差別テロ事件がいつ起きてもおかしくないんだよ。お祖父ちゃんが働いていた会社がテロに巻き込まれてニュースになったでしょう?だからサリンがどんなもので、どんな人たちが、どこでどんな被害を受けたのか知ることはとても大切なんだよ。自分の身を守るためにも、目を背けないで知ることが大切でしょう?地下鉄の駅員さんの中には、サリンとは知らずにいつものように一生懸命掃除をして、亡くなってしまった方もいるんだからね」


少しは心が動いたようだ。


そこで次に、サリン散布の実行犯、 林郁夫受刑者について話した。彼が医師だということを知れば、興味を持つだろうと思ったのだ。息子が幼い頃から慕っている子どもクリニックの先生は林受刑者の後輩だったからだ。


私は林受刑者の経歴を教え、このように説明した。


「サリンで人を殺そうとした殺人犯をよくみていくと、一人一人は、決して極悪非道な人じゃないんだよ。事件当時、私たちを一番驚かせたのは実行犯の中に、●先生と同じ大学の医学部を出たお医者さんがいたからなんだよ」


息子はハッとして「どうして?」と尋ねた。


「林受刑者はまじめなお医者さんだったけれど、まじめだったからこそ、いつしか『医療では人を本当に救えない』と悩んでいったみたい。ただ、悩むのは林受刑者だけじゃないよ。救命救急や高度医療に携わるお医者さんは、同じような悩みを抱える人が少なくないときいたことがある。でも、ほとんどの人は悩んでも一線を越えたりしない。だから、私は言い訳だと思っている」


幼い頃から、病院に通っていた息子は、病院や医師に悪い感情を持っていない。家に遊びに来る友人もお医者さんがいる。私の説明にやはり心を奪われたようだ。


●なんで私たちを苦しめるのか、その心が知りたい


私が息子に熱心にすすめたのは、もう一つ理由があった。息子は医師と病院は好きだけれど、どうしても嫌いで泣いたのが発達検診だった。だから読ませようと思った。


私はベビーサイエンス ターゲット論文 「早産・低出生体重児のより良い発達を支援するために」を読んだ時に、なぜか頭に、林郁男受刑者のことが浮かんだ。


「(特に24週以下の超低出生体重児の)予後が悪いんだ」ということが繰り返し書いてあるからだ。


「それならなんで私たちを救命するのだろう。命が助かったために、直面しなくてはいけない苦しみだってあるのに」という疑問が沸き起こったが、一方でこういうものを出すくらいだから、実は医療者が一番悩んでいるのかもしれないと思った。その時にふと思い出したのが、林郁男受刑者のこの言葉だった。


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「私はもう、先生じゃないから」地下鉄サリン“自首”元エリート医師「林郁夫」が法廷で露にした“怒りの表情” 2015.2.22 17:00 産経ニュース

地下鉄サリン事件解明の突破口

慶大医学部を卒業後、米国の名門病院などで勤務し、国立病院の医長を務めた経歴を持つ元心臓外科医。誠実さと手術の技量の高さが評判だったという。昭和の大スター、石原裕次郎さんの治療に当たったこともあった。

「常に患者の死と向き合わなければならず『どうしてこの人が死ななきゃいけないのか』などと考えるようになった」と、かつて林受刑者自身の公判で仏教に興味を持つようになった経緯を語っていた。麻原死刑囚の著書を読んで平成元年に教団に入信し、翌年に家族4人で出家した。

優秀な医師としての手腕を買われて「治療省」大臣を務めた。脱会や戒律違反を摘発するため、麻酔薬で半覚醒状態にした信者に尋問する「ナルコ」という方法を考案。頭部に電流を流し、教団に都合の悪い記憶を消す「ニューナルコ」も考え出した。当時の林受刑者について、元教団の女性看護師が自身の公判で「林さんは独善的で、言い返すと殴られた」と献身的な医師としての姿からの変貌ぶりを証言したこともあった。

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これまでいろいろあったけれど、息子が『アンダーグラウンド』を熱心に読む姿は感慨深い。こんなに早く、この本を読めるようになるなんて、思いもしなかった。

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