2017/05/26

疑惑の『水口病院』のその後 実名報道とジャーナリズム 

●日本経済新聞に『水口病院』の続報が掲載される


「中絶 違法な手術なくせ 認識不足背景に 無指定医が執刀・入院設備不備」 日本経済新聞2017年5月25日
2017-5-26-0.png


昨日、5月25日の日本経済新聞の朝刊を開いたら、『水口病院』の続報が掲載されていた。警視庁は今年3月、母体保護法に基づく指定医の資格がないのに中絶手術をしたとして、水口病院に勤務していた医師2人を業務上堕胎容疑で書類送検した。あれからどうなったのかが知りたかった。


こちらはネットで配信されている記事だ。

◇  ◇  ◇
違法な中絶手術なくせ 医師の認識不足が背景  2017/5/25 0:43日本経済新聞 電子版

法令などに違反した人工妊娠中絶手術が相次いで表面化している。東京都武蔵野市の病院では母体保護法に基づく資格がない医師が22件の手術をしたことが発覚。横浜市の病院は十分な入院設備がないのに手術をしていた。中絶手術に対する医師の認識不足が背景にあり、日本医師会は講習会などで法令順守の徹底を呼びかける。

◇  ◇  ◇

記事によると、2人は調べに「院長に指定医の資格があれば自分もしていいと思った」と説明したため、捜査幹部が「産婦人科医にもかかわらず、母体保護法に対する理解が乏しすぎる」とあきれているのだそう。それもそのはずで、水口病院の2人の医師が行った違法手術は、2016年5月から9月までの4ヶ月間だけで22件にも上るというから私も驚く。


それでは問題になっている母体保護法とはどんな法律で、何のためにつくられたのだろう?


おさらいのために引用させてもらおう。「中絶について、経済的な理由などで妊娠の継続や出産が困難な場合に限って求められるという規定。担当医は地元医師会から指定を得るよう義務付けている。医療事故や安易な理由で中絶の横行を防ぐ狙い」があるそうだ。


ただ、全国にいる約1万人の産婦人科医のうち、中絶手術ができる指定医は全体の66%にとどまるそうだ。指定医をとらない理由は、「中絶手術をしたくないから」が最も多いという。(昨年12月のフライデーに掲載された、「年間20万件も行われている中絶手術を、1000人足らずの指定でこなせるはずがありません。そんな実態を無視して私どもをスケープゴートにした」という実質上の経営トップ吉田文彦氏の弁明とは食い違う)


●水口病院の問題に関心を持ったきっかけは、医療ジャーナリスト熊田梨恵氏の取材

ところで、私がこの『水口病院』の疑惑に関心を持ったのは、ブログで何度か触れたように、医療ジャーナリストの熊田梨恵氏の取材を受けたからだった。


取材後、熊田氏と何度かやり取りをしていくうちに、なんとなく彼女の姿勢に疑問を持ったのだ。ネットで熊田氏の過去の仕事を調べてみると一枚の写真がヒットした。熊田氏と水口病院の問題の理事長代行が2人で映る写真だ。どうやら熊田氏はかつて水口病院の広報として働いていたらしい…。そこで水口病院について調べていくと疑惑がいろいろある。


あるジャーナリストの名刺に記載された肩書きと住所の謎 疑惑の『水口病院』


●問題の本質は?

しかしネットに書かれている以上のことは私にはわからなかった。


大きく動いたのは昨年12月6日。医療ジャーナリストの伊藤隼也氏とフジテレビ、みんなのニュースが、スクープとして取り上げたのだ。


疑惑の『水口病院』 取材のきっかけは10年前の内部告発


当初はご遺族に同情する声が多くきかれたが、水口病院から抗議声明が出されると一変した。ご遺族や報道に対するバッシングが増えていった。


疑惑の『水口病院』 『エバハート事件』報道とフジテレビ 遺族はお金のために告発するのか? その1


バッシングが続く中で、私の心が痛んだのは、ごく親しい人しか知り得ない情報がネットで拡散された時だった。ネットではもうずいぶん前から、病院が情報操作をしているんだという噂があったが、真実はわからない。ただ、ご遺族の訴えには、反発もつきものだし予想はしていたけれど…、正直「ここまでされないといけないの?」といたたまれなかった。


疑惑の『水口病院』 水口病院のウェブサイトのドメイン登録者の謎 その1


この問題の本質は、記事のタイトルにあるように「(医療側の)認識不足」なのに。「産科の医療崩壊が加速するから」といって本質をみようとしない医療者も少なくない。亡くなった女性の個人的な事情を持ち出してまで、遺族側にも問題があるんだという医療者に、私はさすがについていけなかった。命に向き合うには「ならぬことはならぬ」という厳しさだって必要だと思うからだ。


このまま理事長代行の思惑通り「報道が悪い」「ご遺族は画策グループの手先」でウヤムヤに終わっていくのかなぁ。それでは、亡くなった女性だけでなく、先代の名医だったという院長先生も救われないんじゃないかとがっかりした。


◇  ◇  ◇
疑惑の『水口病院』 フライデー 無資格中絶死事件 水口病院は「死者が理事長だった!」を読んで その1

フライデー 無資格中絶死事件 水口病院は「死者が理事長だった!」 – FRIDAY(フライデー) 2017年 1/6・13合併号 2016年12月22日発売
2016-12-24.png
水口病院の関係者の話

「吉田は創業者の長女の亭主。医者ではなく、司法書士です。それが10年ほど前に2代目が病死したのを機に経営に介入。2代目には医者の息子さんがいましたが、吉田に追い出されたそうです。病院とは無関係の知人を理事長に据えて病院の実権を握った吉田は、待合室をアールデコ調にするなど、院内をゴージャスに造り替えました。歴代院長は誰も理事長と会ったことがないはず」

◇  ◇  ◇

●女性や胎児の命を扱う自覚をしっかり持つよう促したい

だから昨日、日経新聞を最後まで読んだ時、私は嬉しくなった。世の中には命に真摯に向き合う医師達がいるようだ。記事の最後はこのようにまとめられていた。

◇  ◇  ◇
医師会が対策

日本医師会は今年2月、「母体保護法検討委員会」を設置。全ての産婦人科医が指定医の資格を取るよう促す通知を早ければ6月に出す。指定医向けの講習会でも法令遵守の徹底を改めて指導するという。同会の今村定臣・常任理事は「女性や胎児の命を扱う自覚をしっかり持つよう促したい」と話している。

◇  ◇  ◇

●実名報道とジャーナリズム

以前書いたように私は熊田氏の『救児の人々』という本から、自分の章を削除してもらうかギリギリまで悩んだ。削除となると、出版社に負担がかかるからだ。


医療情報誌『集中』出版の不思議 その7 真実が知りたい ワクチンのプロモーションと『牧本事件』


どんな説明でもいいから、私は受け入れるつもりだった。熊田氏にはとにかく利益相反や、実名報道した理由などを説明して欲しかった。それをするのが「ジャーナリスト」だと思うからだ。


でも残念ながら、最後まで説明はなかった。


今でもモヤモヤした気持ちはなくならない。ただいえるのは、この時の経験がなければ、私はブログをはじめなかっただろう。昨日も弁護士さんに会いに行った。こうやってメディアをはじめ、いろいろな所に出かけて、様々な立場の方にお目にかからなかったはずだ。


ブログを書いて良かったと思えることがある。


水口病院の件では、水口病院で以前働いていた方から、先代の院長先生を気づかうコメントが届いた。牧本事件について書いた時には、牧本敦医師と一緒に働いていたという方だけでなく、牧本医師の患者さんのご家族、そしてご友人という方からも、心のこもったコメントが届いた。今もたまに届く。


たぶん、私の中には今でも割り切れぬ思いがあるのだろう。


心のこもったコメントをいただいたり、良い方向に変わっていくんだな、と実感できると、心が癒されるからだ。


実名報道は、社会的インパクトを与えるためだけにあるんじゃないと思う。バッシングされるんだったら、やっぱり世の中が良い方へ変わって欲しい。私は報道やジャーナリズムって、伝えるだけなく、そのためにあるんだと思っているから。


※「水口病院についての報道」というカテゴリーをつくり、一連の報道をまとめました↓

水口病院についての報道

コメント

非公開コメント