2017/06/05

『一般社団法人ウィメンズヘルスリテラシー協会』と『文科省/高校「妊活」教材の嘘』 後編

●東北大学田中重人准教授の研究 「非科学的知識の生産・流通と「卵子の老化」パニック」

先日紹介した『文科省/高校「妊活」教材の嘘』の出版記念シンポジウムは大盛況だったようだ。昨日から私にもブログへのサクセスも増加している。そこで続きを書いてみた。




まず、上記のツイートをしていらした田中重人准教授の研究について調べてみた。どうやら田中准教授は新進気鋭の社会学者のようだ。科研費で採択されたご自身の研究をもとに根拠を示した上で批判していることがわかる。

◇  ◇  ◇
非科学的知識の生産・流通と「卵子の老化」パニック 科学研究費助成事業データベース
2017-6-5-1.png
◇  ◇  ◇

シンポジウムのスライドも拝見した。とても面白い。『一般社団法人ウィメンズヘルスリテラシー協会』についても記載されている。すでに学術論争に発展しているようだ。


2017-6-5-4.png

次にこちらは田中准教授の研究業績一覧からたどりみつけた『「妊娠しやすさ」グラフはいかにして高校保健・副教材になったのか高橋さきの / 科学技術論・ジェンダー論』。2015年9月にシノドスで公開されている。


みていくと…あっ本当だ!

◇  ◇  ◇
「妊娠しやすさ」グラフはいかにして高校保健・副教材になったのか高橋さきの / 科学技術論・ジェンダー論』 2015.09.14 Mon シノドス
2017-6-5-2.png
◇  ◇  ◇

齊藤英和医師(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 副センター長)の登壇したシンポジウムの記録が出てくる!それも『読売新聞』が主催だ。

◇  ◇  ◇
未来貢献プロジェクト シンポジウム<妊娠・出産・子育て>ライフデザインフォーラム 読売新聞 2015.2.11
2017-6-5-3.png
◇  ◇  ◇

●超低出生体重児の母親として周産期医療に不信を抱いてきたこと

田中准教授の研究内容を拝見し、ようやくこの問題を真正面から批判する研究者が出てきてくれたとホッとした。


私は高度医療で救命された、超低出生体重児(1000g未満で産まれた未熟児)の母親だ。私も、出産は若いうちにしたほうが安全だと思う。


ただ、周産期医療の関係者に不信感を抱くようになったのは、「早く産んだほうがいい」という啓発活動には非常に熱心なのに、産まれてきた未熟児の支援をすすめてくれないから。なぜなんだろうとずっと考えてきた。(そもそも当事者だというのに、私の意見はなかなか届かなかった。専門家には「あなたは黙っていて!」と却下されたことすらある!)


日本トラウマティック・ストレス学会に伝えたいこと 私が地上に出た日 育児支援と人権と


最近、専門家の報告書や論文を読んで思う。もしかしたら国が早く出産させようと焦っているのは、出生率の問題だけじゃなく、例えば、超低出生体重児の予後にも様々な問題があることがわかってきたからなのかもしれない。なぜなら彼らは内輪の勉強会や学会などでは「24週未満で産まれた超低出生体重児の予後は悪い」ということを言っているからだ。こちらが代表的な報告書だ。


ベビーサイエンス ターゲット論文 「早産・低出生体重児のより良い発達を支援するために」


さらに問題なのは、この報告書にも書いてあるけれど、まだ超低出生体重児がどう育つのかはっきりわかっていないのに、「未熟児・早産児の発達のムラは、発達障害」とするような流れができつつあることだ。


しかしブログを読んでくださっている方々には、田中准教授が指摘している周産期関連の報告の怪しさが伝わるだろう。だから『発達障害』だって、どこまで真実かどうかまだわからない。


ただ私は、良いか悪いかはさておき、そういう流れができるのは現場が混乱しているからだと考えている。おそらく超低出生体重児の育児支援は過渡期なんだろう。「小児慢性特定疾病児童成人移行期医療支援モデル事業」がはじまったばかりだし。


●母親は皆が皆、働きたいわけじゃない 過労死してしまう人もいるのでは?

ところで田中准教授のご専門はジェンダーのようだ。ちょうどいいので書いておこう。私は、なぜ育児支援がなかなか進まなかったのかと考えた時に、その理由の一つは、男女共同参画という視点からすすめられているからだと思ってきた。


子育て支援とお父さん ジェンダー『思想』を持ち込まないで! 前編 ああ〜、何でもすぐにPTSDにする先生ね


私が困ってきたのは超低出生体重児の支援が不足しているのに、母親が働くか、働かないかという女性の社会進出の問題と一緒に議論されることだった。


ブログに書いてきたように、息子のような未熟児にはほとんど支援がない。ないのは仕方がない面もある。だから個人でなんとか工夫してやりくりしてきたのに今度は、野田聖子議員や駒崎弘樹氏のような方々の「母親に働く機会を」という社会運動にもかき消されてしまいそうになることだった。


『女性保育士を薄給でこき使うな』 駒崎弘樹氏と認定NPO法人フローレンスが訴えられている? 


最近、私のブログを読んだ人たちがよく言っている。


障害や病気を抱えたお子さんを育てるお母さんたちは、皆が皆、働くことを望んでいるわけじゃないでしょう?今でも大変なのに、この上働いたら過労死してしまう人たちが出てくるんじゃないの?


この部分はジェンダーの研究者とは対立するかもしれないけれど、やっぱり書いておきたい。


私は息子のように遅れがわずかな子どもの支援が、そうトントン拍子ですすむとは思えない。先日、新聞に掲載された、成育の「もみじの家」についての記事を読んだら、医療的ケアが必要な子どもが、全国に1万7000人もいると書いてあったからだ。それに親である私の代わりにやってくれる人って、いるのかな?私は自分の子どもだし、自分の責任としてやっている。今の時代にも、母親にしかできないことだってあると考えているからだ。


●村上春樹さんのアンダーグラウンドのように、広く声を集めて欲しい!

だからまずは、すべての家庭がどうやって子育てをしているのか、それこそ村上春樹さんの『アンダーグラウンド』のように、なるべく公平に、そして中立な立場の人たちが声を集めるべきだと思う。


超低出生体重児の予後も、育てる親も皆一人一人違う。よくメディアにのっている「子どもとの生活が幸せです」という前向きな人たちばかりじゃない。私はそうやってきれいにまとめようとするから、悲劇がなかなかなくならないんじゃないかと思っている。「救命されても生きていけません」「今の医療に疑問を感じています」という声だってあるんだから、どちらもちゃんと届けるべきだと思う。


そして若い人たちには、この2つの意見を知った上で選択して欲しい。


●「こんなはずじゃなかった」と思ってからでは遅い

後者の意見が社会に届けられるのは、多くの場合、事件の加害者や被害者になってから。よくある「泣ける裁判」の報道などではじめて母親のおかれた困難に社会の関心が向かう。


そうなってからでは遅い。


私がこれから出産を考える若い女性達に言えるのは、「超低出生体重児に未来がないわけじゃないけれど、育児はとても大変」ということだ。私はすべての親と家庭が超低出生体重児を育てられるとはとても思えない。改善するにしても、まずは現状をきちんと把握してからだと思う。

コメント

非公開コメント