2014/03/31

日本トラウマティック・ストレス学会に伝えたいこと 私が地上に出た日 育児支援と人権と

●あるジェンダー研究者の言葉 「救命された命。その命の持つ力と助ける人間の力をもっと肯定的なものへと社会が変えていく必要がある」


平塚らいてう評論集 (岩波文庫)平塚らいてう評論集 (岩波文庫)
(1987/05/18)
平塚 らいてう

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元始、女性は太陽であった
今、女性は月である。
他に依って生き、他の光によって輝く、
病人のような蒼白い顔の月である


昨年私のこれまでの歩みを社会学の学会で、実名で発表していただいた。これまで紹介した手記は、そのために資料として書いたものだ。


小さく生まれた子供を社会でどう支えるか「その1」 手紙を書いてみる

小さく生まれた子供を社会でどう支えるか 「後記 その1」 私がこころのケアに疑問をもったきっかけ



前回の記事で書いたように「もう遅いかもしれない」そういう気持ちはあるけれど、一方できちんとした学会で発表していただき記録が公式に残っているということは大きな強みになるだろう。今後虐待事件が起きた時には何かの参考になるかもしれないからだ。だからブログにも記録を残しておこうと思う。


●なぜ、未熟児の虐待事件がなくならないのか 

どうして未熟児が虐待されるのか。悲惨な事件が減らないのか。多くの国民の皆さんは疑問に思っておられるだろう。実名にしていただいた理由は虐待防止対策の中に出てくる「超低出生体重児の母親はこうである」という母親像に対する反発からだった。


超低出生体重児と虐待


超低出生体重児の母親とは10人いればそれぞれ皆違うはずだ。子どもの状態、夫との関係、実の親との関係、義理の親との関係、経済状態、学歴、地域との関係、仕事の有無など、どれをとっても同じということはないだろう。なぜ、どうして、いつからこうだとされるようになったんだろうか。


そもそも「育児は母親だけがするのでない。父親も育児に参加を」と 対外的には呼びかけるのに、実際の支援では、なぜか母親にケアをする。どこか官僚的な発想というか矛盾を感じてきた。


医療政策を研究している医師に聞いたことがある。虐待事件が続くと厚労省には「何をしているんだ」という批判の矛先が向かう。だから、専門家を集め報告書をまとめるのだそうだ。それが必ずしも困っている母親のためにならなくてもアリバイになるから・・・。


それが真実かどうかわからないが、私には思い当たることがあった。平塚らいてうの「他に依って生き、他の光によって輝く」という言葉がぴったりと当てはまるような経験をしたのだ。絶対に埋まらないジグソーパズルの最後のピースが埋まるような感じがした。


●私が実名で被害体験を学会発表していただいた理由 超低出生体重児はいくら夫が育児に協力的でも、育てるのが大変だと伝えるため!

実名にこだわったのは「私は違います」そう意思表示をするためだ。


ちなみに夫は育児に熱心で、夜泣きの世話もしたし料理も好きだ。ミシンで子どもの服をリフォームをし、私を驚かせたこともある。だから息子は、私と過ごす時間のほうが長いのに、「僕はお父さんのほうが好き」と私に言う。超低出生体重児はいくら夫が育児に協力的でも、育てるのが大変なのだ。


もしも、夫が新聞記者や救命救急医だったら、育児に協力的でなくても仕方がないだろう。父親が育児に協力的でないといっても、社会のあり方や働き方を考えないと解決しない問題だってあるだろう。


だから私は、支援というものは今の時代、個別にみていかないといけないと思うのだ。「実名で」と強くお願いしたのは、「超低出生体重児の母親」というくくりでなく、一人一人をみて欲しいという願いからだ。


彼女は医療系の大学に所属している。教えているのは社会福祉を学んでいる学生さん達だ。学生さんは学会発表のために一生懸命意見を出してくれたそうだ。彼女は学生さん達の意見を取り入れ、学会発表用のスライドショーをパワーポイントで作った。


●私の「社会的な活動に焦点があてられた」学会発表のスライド 

ところが発表がせまったある日、職場の育児支援の専門家に見せたところ、 またしても「母親の心の問題ではないか」と言われたそうだ。


急遽差し替えられたスライドショーは最初のものと大きく違い、社会的な活動に焦点があてられていた。私が子育てをしながら裁判所に手紙を書き、シンポジウムに登壇し、手記を発表したりと、これまで行ってきた様々な活動が写真とともに紹介されていたのだ。大野病院事件で先頭に立った亡くなった先生と一緒に映っている写真もある。さらに「当日、病院に送った要望書、シンポジウムの原稿、新聞記事などを会場で配布したらどうか」とすすめてくれた。


彼女が作り直してくれたスライドショーを見た時、これまでのことが走馬燈のように蘇ってきた。「ああ、私はこれでやっと顔の見える一人の人間として扱ってもらえる」そんな気がした。


●国立成育医療センター育児心理科医長の言葉 『育児支援は私たちがやるから、あなたは黙っていて」

以前「当事者の声を政策に反映して欲しい」と心の専門家に訴えたことがある。ところが、「私達がちゃんとやっているんだからあなたは黙っていて」と、とりつく島もなく拒絶された。


「あなたなんかに何ができるのか」。


あの時の心が凍るような言葉が私の心に火をつけた。どうして私達のための支援なのに、当事者の私が黙らないといけないの?「草の根でどこまでやれるかがんばってみろ!」と夫は言った。


●心の専門家だって、私たちから搾取しているじゃないか!

その心の専門家はジェンダーの研究者だった。彼女の研究は私に一体何をもたらしたというのだろうか。母親から搾取するのは男性や夫だと決めつけないで欲しい。

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手のかかる子どもの育児に追われていることは決して不幸ではないのだ。結婚生活や母親を不幸と決めつけると、カウンセリングは「家族解体」につながっていくという弊害もあるといわれている。


もともと我が国のジェンダー研究は、マルクスレーニン主義からくるものであり、「家族解体」を目指しているという批判は根強くあった。


●周防正行監督映画「それでもボクはやってない」を彷彿とさせる、国立成育医療センター育児心理科で起きた悲劇

その証拠なのか、妻からの訴えだけで一方的にDVの加害者にされた恐怖、親権を剥奪されたという父親の悲痛な叫びはネットに溢れている。私は女性であるが、同時に男児の母である。私にはすべてが嘘や偽りとは思えず看過できないのだ。診察室の中で何が起きていたのか。そろそろ振り返るべきではないのか。



お父さんはやってないお父さんはやってない
(2006/12/05)
矢田部 孝司+あつ子

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この事件と出会わなければ、僕の映画は生まれなかった----周防正行監督
 冤罪に巻き込まれた夫のために、家族は何ができるのか? 有罪率99.86%の
日本の裁判制度と闘い、逆転無罪を勝ち取った家族の、苦悩と愛情に満ちた感
動の手記。周防正行監督映画「それでもボクはやってない」の原点。


◇ 

答申日:平成24年3月12日(平成23年度(独個)答申第44号)
事件名:本人に係る外来診療録の不開示決定に関する件


オ 客観的な事実

父親は,母親失踪後約半年後に,特定児童相談所を訪れ,子の養育・子の心理鑑定を児童心理士に行ってもらっている。 その結果,

・父親の養育に何ら問題ない。自信を持って今の養育を続けてくれ
・子の心理状況も何ら問題はない。知能指数も一般的な年齢より半年くらい発達している

との回答を得ている。 これは約3~4か月間通って,児童心理士より得た診断結果である。またその後,特定病院にも診察させている。 その医師も,「子供の心理状況には,何ら問題ない」と診断している。仮に子の心理状況に問題が見られるのであれば,毎日通っていた特定保育園の保育士や,その姿を毎日見ていた保護者達が気付くはずである。

(中略)

父親と●の主治医とは,15分程度しか会話したことがない。 それをもって,父親の性格や行動を予測するほどの能力があると言うこと自体が誤りである。




答申日:平成24年3月12日(平成23年度(独個)答申第44号)
事件名:本人に係る外来診療録の不開示決定に関する件


イ 経緯

●の主治医による診療の過程で以下の事象が発生したと思われる。
a主治医は本人の父親,母親それぞれに対し矛盾した説明,会話を行った。
父親の考えは,本人の知的能力を把握した上で本人の能力に応じた教育,体制を構築し,将来的に自立するよう教育すべき。 母親の考えは,飽くまで本人は健常者の能力を有しているとの前提での教育をすべき。

主治医の対応としては,

1 父親に対しては,適正な検査を受けその結果を把握した上での 対応が必要。
2 母親に対しては,健常者としての教育を行うことが必要,検査 の必要はなし。

b この結果,父親,母親は双方の意見,主治医の見解に基づき議論 を行ったものの,当然ながら全く矛盾する会話が展開され,父親, 母親(夫婦)間の不信は回を重ねるごとに埋め難いものとなり,父 親,母親(夫婦)間の関係は修復し難い険悪なものとなった。


c 母親より父親に対し,離婚調停の申立てがあり,最終的に父親側 の抵抗により離婚調停は不調に終わるも,母親は別居用の居宅を借りた状態を継続し,現在も一発触発で一家離散の状況である。

◇  ◇  ◇

参考のために、基本的人権の尊重について引用させていただく。上記の答申書に記載されている、国立成育医療センターの育児理科(当時)で行われていたことは、まさに人権侵害だと私は考える。

◇  ◇  ◇
基本的人権の尊重 静岡県総合教育センター

人間が人間らしい生活をするうえで、生まれながらにしてもっている権利を、基本的人権といいます。日本国憲法では、「基本的人権は人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」によって確立されたものであり、「侵すことのできない永久の権利」として保障しています。基本的人権の内容には、自由権・平等権・社会権などの権利があります。また、現代社会の進展によって、環境権や知る権利などといった「新しい人権」が生まれてきています


◇  ◇  ◇

●医療者に反発される内容が、外の世界に出た途端、沢山の共感や賛同を得られる

世の中にこんな偶然があるのだろうか。私のために発表してくれた社会学者もまたジェンダーの研究者だったのだ。それも、見過ごされがちな女性の人権問題を扱ってきた専門家で受賞歴のある優秀な方だった。だから私を一生懸命、外の世界に連れ出そうしてくれたのだ。「あなたの主張はジェンダーの王道」と言ってくれた。


当日、発表は大成功だったそうだ。参加者には「この問題は超低出生体重児の育児だけじゃなく、もっと普遍的な問題をはらんでいる」と言われたそうだ。そう、私はずっと願ってきた。退院後の育児支援は医療問題ではなく、「社会の問題」として扱って欲しいと。外の世界に出るのに10年かかったのだ。


医療者に反発される内容が、外の世界に出た途端、沢山の共感や賛同を得られるーーーーここに悲しい事件が減らない原因が隠されているのではないだろうか。


彼女の言葉を紹介する。


「重度障害児の在宅医療は大変であり、在宅で看ることが親の愛といっても限界があると思います。私は、医療中心の取り組みではなく、社会的福祉的支援が中心になるべきであり、医師は必要に応じて役割を果たすぐらいのほうがいいと思います。重度障害を抱えた子どもたちは医療の力がなければ生きられなかったのだとしても、子どもたち自身の生命力がなければ生きられなかったのも事実だと思います。救命された命。その命の持つ力と助ける人間の力をもっと肯定的なものへと社会が変えていく必要があると思います」。


クローズアップ現代が放送されたのは、学会の直前だった。まさに彼女の指摘しているようなことがテーマだった。当日の発表では、クローズアップ現代についても触れられた。


NHKクローズアップ現代「幼い命を守れ~小児在宅ケア・地域の挑戦~」田村正徳埼玉医科大学総合医療センター教授の言葉を一部引用させていただく


◇  ◇  ◇  
私は厚生省の研究班でNICUの長期入院児の問題を検討する研究班をまかされたことがあるんですけれども、福祉や障害(を受け入れる取り組み)をやっている方から、「あなた達はNICUのベッドをいかに空けるかということだけに気がちっていて、そのお子さんを帰した時に、お子さんと家族が出会うであろう生活とか福祉の問題とかに気を留めない」というふうに、注意をされたことがあります。


厚生省は2012年を在宅医療元年とよんで、在宅医療の他職種の連携とか拠点事業とかずいぶん、力を注いでおります。ただ、地域によって温度差がありますので。しかしながら、子どもの在宅医療を支えるということは患者さんや親御さんだけではなくて、国全体の子どもや赤ちゃん、お母さんの安全保障ということになりますので、国がイニシアティブをとって普及させる活動をさせるべきだと思います


65歳以上の老人に対する、国民一人あたりの国民総医療費は、15再以下の子どもの10倍ということになります。ぜひ、子どもにもお金を使っていただいて、より安心して住める社会にしていただきたいと思っています。この問題を子どもの問題でなく、社会の問題として捉えていただきたいですね

◇  ◇  ◇  


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