2014
Dec
29
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『薬害エイズ事件』を考える その4 NHKスペシャル『埋もれたエイズ報告』 は誤った報道だった?
『薬害エイズ事件』を考える その3 薬害裁判 本来行われるべきことは何か の続き
櫻井よし子氏の『エイズ犯罪 血友病の悲劇』と武藤春光氏、弘中惇一郎氏の『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』には、当時の研究班でどんな議論がなされていたかが記載されている。同じことを見聞きしても、「悪い奴に違いない」という先入観があるのとないのとでは、導く結果が全く違うことがわかる。
私は「悪魔は人の心が作り出すもの」と思ってきたが、まさにそれを証明しているようだ。櫻井氏が問題だと記していた、安部氏の会議での発言。発言だけを取り上げると確かに冷たく感じる。
「私どもは一例は、一人殺しているんです」
「私どもはね、毎日注射しているからね。これは毒が入っているかもしれないと思いながら注射しなければならないんだからね。それを待っててなんて、おれないよ」
「この間発表したのは、ごく最近死んだもの、それから今も次から次に毎日やっていますから、あした出るかもしれない」
気になったのは、弁護士が指摘しておられるNHKの特集番組の影響力だ。私も当時、テレビの前で怒りに震えた一人だったけれど・・・
「裁判所の証拠にも採用されて民事裁判に大きな影響を与え、ジャーナリスト界の賞も受賞した番組が、事実とは異なる内容だった」と主張しておられる。
番組の内容は、『厚生省が、アメリカの製薬企業が製造した濃縮製剤の1ロットが「エイズウイルスに汚染されているかもしれない」と、エイズ研究班に報告しなかった。そのため、エイズの被害が広がった』というものだった。
地方にいくほどNHKの影響力は今でも大きい。公共放送の大切な使命とは、自分達が行ってきた報道をきちんと総括することでもあると思う。なぜなら、報道された人だけでなく、家族の人生をも左右するからだ。
いくら被害者の救済に報道が必要でも、事実とかけ離れた内容を報道されると、激しい揺れ戻しがおきる。その結果、次の被害者が救われなるという弊害につながるのではないか。
私は安部氏に責任はあると思う。しかし、事件当時報道されていたように、安部氏一人に背負わせる罪だとはどうしても思えない。何も知らない自分の部下を筆頭著者にして論文を書かせたり、アメリカに調査を依頼していた事実は櫻井氏が指摘したような「隠蔽」のためではなく、むしろ「医師としての良心」からくる行動だったと思うからだ。
私がこう思うようになったのは、夫が医学部にお世話になり、製薬企業とお付き合いをしてきたからだと思う。世の中にはその立場にならないとみえない景色があるのではないだろうか。
櫻井よし子著『エイズ犯罪 血友病の悲劇』文庫版によせてから
安部氏はこれまでエイズの危険性は察知してはいたが、その危険性はそれ程、高いものではなかった旨の発言を重ねてきた。
だが、第一回目の班会議では「最も強い危機感」を表明し、非加熱製剤に代わる安全な製剤を「待っててなんか、おれない」と言っているにもかかわらず、加熱製剤の開発で先攻していたトラベノール社に対し「1〜2社だけの先駆けは許さない」等の発言をした。
結果として、早期に加熱製剤を供給することの出来た社も、暫く待たされる形で、加熱製剤の承認は85年7月まで、大幅にずれこんだ。
武藤春光・弘中惇一郎著『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』コラム① NHK の『埋もれたエイズエイズ報告』
(第1回の研究会の発言を録音したテープから)研究会の全体の雰囲気も極めて楽観的で、安部医師と行政のみが危機感を表明しておりました。そして、その研究報告はエイズ研究班の審議に何も影響を与えていませんでした。
当時、郡司課長らは日本にエイズ患者がすでにいるかどうか、その本体は何なのか、ウイルスだとしたらどんな性質か、潜伏期間は、その発症率はなど、重要な情報を必死で探していました。
製剤の95パーセントを輸入に頼っている状況では輸入品の回収などは当然あるだろうと予想していましたので、そんなことは重要な情報ではないと思われていました。
ですから回収があったことを研究班に報告したかどうかは、報告した郡司課長も、報告を聞いた塩川氏も忘れてしまったようです。
NHKの組織倫理規定には「裁判中の事件に関しては慎重を期す」とあります。公共放送であるはずのNHKは倫理規定違反をしてとんでもない誤った報道をしてしまったのです。
(中略)
NHKは公共放送として徹底的な体質改善が必要です。
以下略
櫻井よし子氏の『エイズ犯罪 血友病の悲劇』と武藤春光氏、弘中惇一郎氏の『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』には、当時の研究班でどんな議論がなされていたかが記載されている。同じことを見聞きしても、「悪い奴に違いない」という先入観があるのとないのとでは、導く結果が全く違うことがわかる。
埋もれたエイズ報告 (1997/07) 桜井 均 商品詳細を見る |
私は「悪魔は人の心が作り出すもの」と思ってきたが、まさにそれを証明しているようだ。櫻井氏が問題だと記していた、安部氏の会議での発言。発言だけを取り上げると確かに冷たく感じる。
「私どもは一例は、一人殺しているんです」
「私どもはね、毎日注射しているからね。これは毒が入っているかもしれないと思いながら注射しなければならないんだからね。それを待っててなんて、おれないよ」
「この間発表したのは、ごく最近死んだもの、それから今も次から次に毎日やっていますから、あした出るかもしれない」
気になったのは、弁護士が指摘しておられるNHKの特集番組の影響力だ。私も当時、テレビの前で怒りに震えた一人だったけれど・・・
「裁判所の証拠にも採用されて民事裁判に大きな影響を与え、ジャーナリスト界の賞も受賞した番組が、事実とは異なる内容だった」と主張しておられる。
番組の内容は、『厚生省が、アメリカの製薬企業が製造した濃縮製剤の1ロットが「エイズウイルスに汚染されているかもしれない」と、エイズ研究班に報告しなかった。そのため、エイズの被害が広がった』というものだった。
地方にいくほどNHKの影響力は今でも大きい。公共放送の大切な使命とは、自分達が行ってきた報道をきちんと総括することでもあると思う。なぜなら、報道された人だけでなく、家族の人生をも左右するからだ。
いくら被害者の救済に報道が必要でも、事実とかけ離れた内容を報道されると、激しい揺れ戻しがおきる。その結果、次の被害者が救われなるという弊害につながるのではないか。
私は安部氏に責任はあると思う。しかし、事件当時報道されていたように、安部氏一人に背負わせる罪だとはどうしても思えない。何も知らない自分の部下を筆頭著者にして論文を書かせたり、アメリカに調査を依頼していた事実は櫻井氏が指摘したような「隠蔽」のためではなく、むしろ「医師としての良心」からくる行動だったと思うからだ。
私がこう思うようになったのは、夫が医学部にお世話になり、製薬企業とお付き合いをしてきたからだと思う。世の中にはその立場にならないとみえない景色があるのではないだろうか。
櫻井よし子著『エイズ犯罪 血友病の悲劇』文庫版によせてから
安部氏はこれまでエイズの危険性は察知してはいたが、その危険性はそれ程、高いものではなかった旨の発言を重ねてきた。
だが、第一回目の班会議では「最も強い危機感」を表明し、非加熱製剤に代わる安全な製剤を「待っててなんか、おれない」と言っているにもかかわらず、加熱製剤の開発で先攻していたトラベノール社に対し「1〜2社だけの先駆けは許さない」等の発言をした。
結果として、早期に加熱製剤を供給することの出来た社も、暫く待たされる形で、加熱製剤の承認は85年7月まで、大幅にずれこんだ。
武藤春光・弘中惇一郎著『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』コラム① NHK の『埋もれたエイズエイズ報告』
(第1回の研究会の発言を録音したテープから)研究会の全体の雰囲気も極めて楽観的で、安部医師と行政のみが危機感を表明しておりました。そして、その研究報告はエイズ研究班の審議に何も影響を与えていませんでした。
当時、郡司課長らは日本にエイズ患者がすでにいるかどうか、その本体は何なのか、ウイルスだとしたらどんな性質か、潜伏期間は、その発症率はなど、重要な情報を必死で探していました。
製剤の95パーセントを輸入に頼っている状況では輸入品の回収などは当然あるだろうと予想していましたので、そんなことは重要な情報ではないと思われていました。
ですから回収があったことを研究班に報告したかどうかは、報告した郡司課長も、報告を聞いた塩川氏も忘れてしまったようです。
NHKの組織倫理規定には「裁判中の事件に関しては慎重を期す」とあります。公共放送であるはずのNHKは倫理規定違反をしてとんでもない誤った報道をしてしまったのです。
(中略)
NHKは公共放送として徹底的な体質改善が必要です。
以下略